中国に流れる「日本人」のゲノム

広まる個人向け遺伝子検査の落とし穴


村中璃子 (むらなか・りこ)  医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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日本人の子供たちの遺伝子が上海に流れている。

 行き先は、世界最大の才能遺伝子検査会社、上海バイオチップ。

 遺伝子を調べることで、記憶力、注意力、理解力、想像力、勇気、羞恥心、楽観、探究心、同情心、社交性、聴覚、音感、色覚、美的感覚、耐久力、筋力、速度、瞬発力など41 項目の潜在能力が分かるという同社の遺伝子検査の値段は58000円。日本でも20以上の代理店があり、子供の頬の内側の粘膜を擦り取って郵送するだけという手軽さで、謳い文句は「出産祝いのプレゼントにも」。アマゾンでもキットを購入して簡単に申し込むことができる。

 『NHKスペシャル』や『エチカの鏡』など日本のテレビ番組でも、才能遺伝子検査を利用して英才教育に熱を上げる中国人富裕層の姿が紹介された。

 そこで描かれるのは、「遺伝子検査でここまでわかるようになった」という希望に満ちた現在。遺伝子で個性を伸ばされ成功したという、満面の笑みの、高価な着せ替え人形に似た中国人の子供たち。

検査代金58000円でも
お受験のためなら

 ところが、この検査、実際の利用者は中国人よりも日本人の方が圧倒的に多いらしい。

 「小学校お受験」の盛んな世田谷区に住む30代の女性は、「小学校受験向けの有名塾の受験ではほとんどの場合、入塾の条件として知能テストをやってくれます。でも、幼稚園側もビジネスだから、結果に関わらず『どんな子供でも伸ばす』と言うでしょ。そうなると本当に何が向いているのか、せっかく知能テストをやったのに親としても判断に困るんです。遺伝子検査は小さな子の適性を考える際の参考になると思います」と語った。

 小学校受験のための有名塾の受験(有名小学校ではなく、そこに入るための塾の受験!)は2歳11か月にするというのが基本。まだまだ発達の個人差も大きく、知能テストで聞かれていることがちんぷんかんぷんという子供も多いはず。確かに、こんな小さな子供に知能テストを課したところで分かることは少ないかもしれないが、才能遺伝子検査なら本当に意味があるのだろうか。検査代金の58000円という価格についても、「年長さんの夏の夏期講習代金が100万円くらい。カリスマ家庭教師に頼むと1回10万円が相場ですから、格安という感じ」との答えが返ってきた。

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著者

村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

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