小保方晴子が開けたパンドラの箱
アカデミアは不都合な真実に向き合えるか

STAP問題で明らかになったわが国の課題


市川家國 (いちかわ・いえくに)  理化学研究所・研究不正再発防止のための改革委員会委員/ 信州大学特任教授

慶應義塾大学医学部卒業。ハーバード大学准教授、バンダービルト大学教授、東海大学医学部教授等を経て現職。米国の研究倫理教育に詳しく、CITI Japanプロジェクト副統括も務める。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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STAP騒動は、理化学研究所のみならず、わが国のアカデミア全体に本質的な問いを投げかけている。この問題で数々の取材を受けてきた改革委員会委員が、自らの言葉で思いを綴る。

 今回のSTAP細胞事件は、多くの日本の代表的大学病院を巻き込んだ降圧剤ディオバンをめぐる不正事件などとは異なり、たった一人の若い研究者による研究不正だった。にもかかわらず、メディアの騒ぎようは異常ではないか。こういった見方は当初よりあった。

 筆者も問題の根の深さとなると、虎の子のデータの解析を、利益相反も甚だしいノバルティス社の社員に丸投げし、それを「是」としていた数多くの医学部教授の存在とその存続の方が、わが国全体の研究者の倫理観という点では、はるかに深刻と考える一人だ。

 STAP細胞事件のメディアの扱いの原因には、『Nature』という注目される雑誌に掲載されたことに加え、最初の華々しい記者発表や、「リケジョ」という珍しさも背景にあったであろう。しかし、調査内容を限定し、あたかも隠蔽と解釈される理研の姿勢に対する国内の生命科学領域の研究者の危機感がメディアの重要な踏み台となった、と筆者は見ている。

 わが国の生命科学系の研究者が声を上げたのは、たった一人の過ちとは言え、作製に成功したとされるSTAP細胞の持つ科学的意味の大きさと、その後浮上した不正と疑惑の派手さから、今後世界の教科書に載る不正として注目を浴びることを予感したからに他ならない。

 疑惑の解明に対して理研が煮えきらない姿勢をとり続けるほど、「一個人の不正」の域を脱して、「わが国を代表する研究機関の不正への姿勢」へと解釈は拡大する。わが国からの論文の信用度の低下は彼らにとって研究者生活を続けていく上で死活問題なのだから、理研の姿勢を見て声は大きくなる。日本分子生物学会の再三にわたる理研への申し入れもその一環だ。

 一連の理研の対応に、米国の国立科学財団(National Science Foundation)のある高官は筆者にこんなメールを送ってきた。

 「STAP事件は研究倫理教育の教材としてうって付けのものを豊富に含んでいる。なかでも、研究不正疑惑が持ち上がった時、組織はどのような行動をとってはいけないかという点だ」

STAP問題は論文不正で一旦カタがつけられそうになった
(4月1日の調査委員会報告を発表する理研首脳陣、AFP JIJI)
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「WEDGE REPORT」

著者

市川家國(いちかわ・いえくに)

理化学研究所・研究不正再発防止のための改革委員会委員/ 信州大学特任教授

慶應義塾大学医学部卒業。ハーバード大学准教授、バンダービルト大学教授、東海大学医学部教授等を経て現職。米国の研究倫理教育に詳しく、CITI Japanプロジェクト副統括も務める。

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