中国メディアは何を報じているか

2014年10月9日

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弓野正宏 (ゆみの・まさひろ)

早稲田大学現代中国研究所招聘研究員

1972年生まれ。北京大学大学院修士課程修了、中国社会科学院アメリカ研究所博士課程中退、早稲田大学大学院博士後期課程単位取得退学。早稲田大学現代中国研究所助手、同客員講師を経て同招聘研究員。専門は現代中国政治。中国の国防体制を中心とした論文あり。

 香港警察による催涙弾の使用でにわかに混迷の様相を呈した香港での抗議デモで、北京政府による軍動員の可能性が指摘されている。デモ鎮圧への武力使用の可能性は中国の新聞メディアによる出動を示唆する論評などで現実味を帯びたが、10月第2週目に入り、一部の学生は学校に戻り、学生側代表と香港政庁の対話も行われ、緊張は収まりつつあるかに見える。

 とはいえ学生側の要求が何一つ実現されていない以上、デモが繰り返される可能性は高く、汚職取締りや人事異動、機構改革で解放軍は現在不安定な状態にある。こうした軍の強硬姿勢は変わっておらず、引き続き注視する必要がある。欧米や日本では天安門事件のような流血事態の再発可能性は低いと見られており、常識からいえばその通りだが、中国政府や軍が考える群集騒擾事件に対する考え方は日本で考えられるような合理的思考からは大きく逸脱しているから必ずしも楽観視できない。

「中国本土の武警はいつでも出動可能」

 そこで軍の香港デモに対する考えを窺える2本の新聞記事を紹介したい。一つは中国共産党機関紙『人民日報』系統に属する『環球時報』に掲載された武装警察(通称、武警)出動の準備が整っているという論評、もう一つは解放軍の機関紙『解放軍報』に掲載された香港駐屯解放軍部隊の思想の堅固さを賞賛する記事である。

 『環球時報』は、『人民日報』に比べ、販売部数を伸ばそうということからタブロイド紙的な側面があり、センセーショナルな論調を展開しがちで、香港のデモについても強い調子で批判する論評を掲載している。こうした記事の中でとりわけ注目されたのが武警系大学の若手教員による「香港警察が力不足なら武警が混乱平定の支援可能だ」(9月29日付『環球時報』ネット版)という論評である。

 論評では香港での学生デモに対して「香港の警察が駄目なら中国本土の武警は準備が整っており、いつでも出動可能」と述べている。ただ興味深いことに、この論評が掲載されて数時間でネットから削除された。中央政府の中でも武力行使について意見の相違があって慎重な対処が求められていることが窺える。文章は短編で簡潔だが、中国の軍(対国内の軍としての武警)当局による騒擾事件に対する考え方を知るうえで興味深い。論評の筆者は武警政治学院(上海)の王強助教授である。

 王助教授は学生の授業ボイコットが「学生連合」や「学民思想潮流」によって操作された「違法事件」と定義付ける。こうした「事件」は一部の者が「民主を勝ち取る」口実で香港特別区の首長選出方式について議論を持ち出したため起きたとしている。そして事件の性質変化の転換点を迎えていて反中勢力が内外で結託して特別区の管轄権を奪い取ろうとしていると警戒感を露にしている。

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