【緊急特集】エボラ出血熱

2014年10月14日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 検疫で感染者の入国を防げないことは、大方の予想どおり証明された。アフリカとの飛行機の往来の少ない日本にエボラがアフリカから侵入する可能性は低いとされてきたが、今後、アメリカで感染が拡大した場合、アメリカ経由で日本にはいってくることはないのか。アメリカにおける感染者発生の報告は、遠いと思っていたアフリカの出来事が、日本に大きくにじり寄ってきたことを実感させる。

問われる「感染疑い」への対応
脆弱な日本のインフラ

 後述するが、日本にはエボラ出血熱を確定診断できる検査施設がない。厳密に言えば、今後アメリカで感染が拡大した場合、日本は、海外に送った検体の検査結果を待ちながら、発熱と渡航歴で拾う「感染疑い例」を、たったの92床で管理していくことになる(注:文末参照)。これから、エボラ出血熱の初期症状と似た訴えのインフルエンザのシーズンにも入る日本において、92というベッド数は妥当なのだろうか。

 エボラ出血熱の症状は、38・6度以上の発熱、激しい頭痛、筋肉痛、脱力感、下痢、嘔吐、腹痛、原因不明の出血傾向。発症初期にすべての症状が出そろうことはなく、インフルエンザなどの、他のウイルス性疾患と変わりがない。このため、アメリカでもインデックス・ケース(最初の症例、リベリア人男性のこと)が、「何かのウイルス感染症でしょう」ということで、いったんは家に帰され、感染拡大のリスクを広げてしまった。

 エボラウイルスが国全体に広がって被害が深刻なのは、ギニア、リベリア、シエラレオネの3か国。WHO(世界保健機構)の発表によると、2014年10月8日現在(10月10日にアップデート)、8400名の患者(うち4656名が陽性確定例)が報告され、4033人が死亡している。

 しかし、アメリカのような医療水準を満たさないナイジェリアとセネガルの2国においてさえ、なぜかエボラの感染は拡大しなかった。ナイジェリアでは20人のエボラ感染者が確認されて8人が亡くなったが、アウトブレイクは地域に限定して収束。セネガルでは、エボラ患者が60人以上と接触していたが、結局、発症したのはその1名だけで、命も取り留めた。アメリカのインデックス・ケースも、発症後4日間は隔離されることがなかったが、今のところ、この患者をケアしていた看護師以外のケースは報告されていない。 

 状況証拠からすれば、エボラウイルスは同じ飛行機に乗ったり、町ですれ違ったりする程度で簡単にうつることはなさそうだ。また、不幸中の幸いなことには、潜伏期間の感染力は無いと見られている。現時点で言えることは、飛沫で感染し潜伏期にも感染力持つ新型インフルエンザとは異なり、エボラ出血熱の場合、たとえ日本に入ってきたとしても、一般人の間で感染が広がる可能性は低い、ということだ。現在、先進国で感染者が出たのはアメリカとスペインの2か国。いずれの国においても、先進国で感染したのは医療者だけだ。日本においても、当面、ハイリスクなのは医療者のみと考えてよいだろう。

 一方で、エボラウイルスの潜伏期間は2日から21日と幅があり、今後も渡航者の中から別の患者がアメリカ国内で報告される可能性は否定できない。

 エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染した人や動物の体液(血液、尿、唾液、汗、便、吐瀉物、母乳、精子等を含む)に、直接接触することで感染する。アフリカでは、野生動物の食肉習慣やウイルス感染したコウモリとの接触、死者に抱きついて弔う風習などが、山間部や貧困地域での感染を特に拡大させているとも言われる。そのため、先進国一般人の間で、エボラ出血熱がアウトブレイクを起こす可能性は低い、という見方があるものの、感染を拡大させないために、検疫や国内で「感染疑い例」をどのように拾い、管理していくのかについては大きな議論もある。

 原因に関わらず、アフリカを出国するときには無症状でも機内で発熱し、日本に到着する前に頭痛や嘔吐が始まる人はいくらでもいる。こういった患者と、類似症状を示すマラリアやデング熱などの熱帯感染症、ひいてはインフルエンザなどのコモンなウイルス感染症と鑑別することは不可能。アメリカではすでに、アフリカ帰りの旅行者や現場で働く医療者が、次々と発熱や嘔吐を訴え、混乱をきたしている。

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