プロが危惧する
感染症予防後進国・日本の姿


堀成美 (ほり・なるみ)  国立国際医療研究センター 感染症対策専門職

神奈川県生まれ。神奈川大学法学部、東京女子医科大学看護短期大学卒業。感染症科外来勤務の後、国立感染症研究所FETP、聖路加国際大学看護学部を経て、2013年より現職。感染症の流行の早期対応、予防啓発に取り組む。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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グローバル化の名のもと、海外に出かける日本人も、日本に来る外国人も増えている。その中で遅れているのが感染症対策だ。現場から実態を報告する。

 私は独立行政法人国立国際医療研究センター・国際感染症センター(東京都新宿区)という医療機関に勤務する、感染症が専門の看護師だ。私が所属するトラベルクリニックは、「海外に行く人」や「帰ってきて体調が悪い人」をケアする部門である。海外に出かける人が増えている一方で、その準備は不十分で丸腰で戦地に行くかのような人もいる。

知らないことのリスク

GETTY/IMAGES

 今年の春休み明けにマラリアの大学生が搬送されてきた。大学内の活動でケニアのマラリア流行地に滞在した。検疫所で黄熱ワクチンは接種していたが、マラリア予防内服はしていなかった。現地民の家で寝袋を使って寝泊まりし、蚊帳や忌避剤の使用はしていたが、蚊に刺されることは多かった。

 帰国後に悪寒戦慄を伴う発熱、頭痛、食思不振を自覚し、翌日に病院Aを受診して解熱剤の処方を受けた。しかし、症状は改善せず、転院を繰り返して「熱帯熱マラリア」と診断された。脳性マラリアを含む合併症を伴い重症化していた。

 感染症の治療のためにスケジュールに支障をきたし、就職活動の採用面接を受けられないといった学生もいる。マラリアの流行地ならば虫よけや蚊帳だけでなく、内服薬という選択肢の検討が可能であり、日本脳炎の流行地ならばワクチン接種歴の確認が必要である。現在、予防内服によってほとんどのマラリアの発症を予防することができるが、こうしたことを知らされないままでかけて発症した場合、健康問題もさることながら当事者や家族の心配や経済的損失はとても大きい。

 劇症型A型肝炎となったビジネスマンの例もその一つだ。インド、バングラデシュを訪問し、衛生状態のよくない食品を接取したことによって発症した。劇症型A型は症状の悪化速度も速く、死亡率は7割にもおよぶ。救命のためには生体肝移植などの対応が必要になることもある。

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「WEDGE REPORT」

著者

堀成美(ほり・なるみ)

国立国際医療研究センター 感染症対策専門職

神奈川県生まれ。神奈川大学法学部、東京女子医科大学看護短期大学卒業。感染症科外来勤務の後、国立感染症研究所FETP、聖路加国際大学看護学部を経て、2013年より現職。感染症の流行の早期対応、予防啓発に取り組む。

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