WEDGE REPORT

2014年11月11日

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子どもが生まれるのを機に翻訳家になった井口耕二さん。会社人生だけではない、もう一つの世界を持っていたことが脱サラを後押しした。

 2011年10月25日の発売後、10日で100万部を突破した『スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ』(ウォルター・アイザックソン著、講談社)。ジョブズ氏が死去したことで、発売がほぼ1カ月前倒しされた。“世界同時発売”という触れ込みだったため、日本語訳は間に合うのか?と話題になった。「人海戦術だよ。いや、機械翻訳じゃないの?」と、様々な憶測を呼んだ。だが、実際は一人の翻訳家の手によって行われていた。

世界同時発売となった『スティーブ・ジョブズⅠ・Ⅱ』。発売直後の上海の書店
(写真:AFLO)

 「原文は約22万ワードあります。この量だと通常8~9カ月かけて翻訳しますが、3カ月で仕上げました。過労死するかも……というほどでした」と、翻訳を手がけた井口耕二さん(55)は振り返る。

 このところ、Googleなどの機械翻訳の能力が向上してきたが、それでもまだ読みづらい。翻訳家と何が違うのか。井口さんは「言葉に込められた著者の想いを推測し、それを表現するという形で、訳文だけ読んでも翻訳だとは分からないようにしている」という。この匙加減はとても難しい。良くとってもらえれば「原文の意味を汲み取っている」ことになるし、悪く受け取られれば「原文にない情報が付け加えられている」ことになる。

 「作者が作詞・作曲家なら、翻訳家は演奏家だ」。先輩翻訳家の故・山岡洋一氏から、井口さんがもらったアドバイスだ。オーケストラなど同じ曲でも、指揮者や楽団で違いが出るように、訳文にも翻訳家の個性が出る。だから機械翻訳の無味乾燥な文章とは違うのだ。

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