家電の航路

2011年10月6日

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前田 悟 (まえだ・さとる)

金沢工業大学客員教授

(株)SOW他複数企業特別顧問。1951年岡山県生まれ。ソニーで、世界初の無線TVエアボード、ロケーションフリーTVなどを開発。07年にケンウッドに移籍し、2008年JVC KENWOOD Holdings㈱執行役員常務に就任、2011年6月退任まで技術戦略、新規商品開発を担当する。2010年7月から、金沢工業大学客員教授、現在は複数企業の特別顧問も行っている。

アップルの共同創業者、スティーブ・ジョブズ氏が10月5日死去した。8月の最高経営責任者(CEO)退任時から、これまでの功績や今後のアップルの行く末について世界中のメディアでとりあげられていた。

 Appleのスティーブ・ジョブズ氏が最高経営責任者(CEO)から降りた。世界最優良企業のCEO退任ということで、世界中のメディアがこぞって記事を載せた。Appleが他のIT企業と最も大きく異なるところは、常に革新的なハードウェア機器をベースに新たなLife Styleを提供してきたことにある。それはジョブズ氏がAppleを創設したときから普遍のものである。

 最近、Appleの成功を見て、ハードウェア商品が中心である日本の家電メーカーから「ネットワークとコンテンツの融合」という言葉を聞くが、これでは新規商品・事業は生まれてくるとは思えない。具体性に欠けているし、成功の根底にあるのは「魅力的なハードウェア商品の提供である」ということが忘れられている。Appleの場合、この魅力的なハードウェアが大量に売られ、その結果、ITunes、App Storeのコンテンツビジネスが成功しているのである。

 ジョブズ氏の語録の中に「製品をデザインするのはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」というものがあると聞くが、社員にもそのように教育をしたからこそ、今のAppleがあるのだと思う。これはソニーの第一世代の人が「まず試作を作れ」ということにも繋がり、筆者も時間があれば、自分で思いつく欲しいものを作ったりしてきたが、その結果アイデアが出てくるようになった。今の家電メーカーにもそのような教育が必要なのではないか。

 筆者が世界初の無線ロケーションフリーテレビ“エアボード”を発売した直後の2001年にジョブズ氏が来社したことがあった。そのとき、まだ発売直後で普及していないiPodを「ソニーと一緒に」と言ったと、その会議に立ちあった一人から聞いた。しかし、議論は噛み合ず、立ち消えになった。もし、会議の担当責任者に先見性があって、協業することになっていれば、全く違った世界が開けていたであろう。あまりにもったいない話である。

 余談であるが、その時にジョブス氏は、「エアボードは知っている。それは後の話で、まずはオーディオの話だ」と言ったと聞いた。

リプレイスするものと並存するもの

 筆者の経験から新規商品にはセオリーがあり、(1)従来の商品をリプレイスするもの、(2)従来の商品と並存するものがある。iPodはWalkmanをリプレイスする前者である。ジョブズ氏は、ホーム機器、車載機器を持っているソニーと、AppleのiPodが組むことにより、Walkmanに代表されるカセット携帯オーディオを完全にリプレイスし、新しいオーディオビジネスの世界ができると考えたのではないかと思う。

 ジョブズ氏退任で、Appleあるいは日本を含むアジアの家電メーカーにどのような影響があるかと聞かれる。あるとすればAppleが今までのように新規カテゴリーを出し続けて行けるかどうか、またAppleを超える新しいLife styleを提供する商品をアジアの家電メーカーが出せるかどうかだけである。

◆WEDGE2011年10月号より

 



 


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