6月頃から香港で「真の普通選挙」を求める運動が起こると、台湾の人々はその動向を注視したが、大陸で台湾政策を立案・研究する人々は、意外なほどその関連性に無頓着であった。香港と台湾のデモを連動させまいと、半ば意図的にそのように振る舞っている部分もあっただろうが、自信から生じる油断(ある中国知識人の言葉を借りれば「拝金主義の横行がもたらした傲慢さ、他者への理解の欠如」)がそこには垣間見えた。
香港の一国二制度は、中国共産党にとって台湾統一を見据えたモデルでもあり、台湾の民衆にとって、香港で起こっていることは他人事で済ませられない意味を持つ。多くの台湾の人々が香港のデモを支持したのは、民主主義への共鳴のみならず、自分たちの姿をそこに重ねたからである。
9月末に香港で大規模デモ(雨傘運動)が発生すると、中国政府もその深刻さを認識せざるを得なくなり、「香港と台湾は関係ない」という振りを続けられなくなった。習近平は、9月26日、台湾からの訪中団に対し、一国二制度による台湾統一を強調したが、習近平自身がそのような発言をしたのは、主席就任後初めてのことであった。「独立しない」ことと共に、「統一しない」を宣言している馬英九政権は、批判コメントを出さざるを得ず、さらに香港のデモに対する支持を表明した。
その直後、APECに馬英九が参加する可能性はなくなったことが公表された。ただ、香港のデモが起こる前から、習−馬会談の実現可能性については極めて難しいと予測されており、このこと自体は中台関係にさほど大きな影響を及ぼすわけではない。むしろ、習−馬会談が実現していたとしたら、中台接近に対する懸念から、台湾の人々は統一地方選で国民党を忌避する投票行動をとったかもしれない。
11月末の統一地方選では、国民党が席を減らすことになるだろう。結果として民進党は有利になるだろうが、その政策が支持されているというわけではない。08年の総統選で、民進党候補の蔡英文氏が敗北した原因の一つは、対中政策の曖昧さにあった。台湾の人々は、中国との統一は望んでいないが、中国との関係をこじらせ、国際的に孤立したり経済的なダメージを受けたりすることは望んでいない。
民進党内部には、中国との関係構築を目指すべきだという声と、あくまで独立の旗を掲げ続けるべきだという声が存在し、まだ党としての方針が決まっていない。民進党にとっても、執政党として政権を預けられるという信頼を民衆から得るためには、乗り越えなければならない課題は多い。
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