「ひととき」特別企画

2015年3月23日

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植松二郎 (うえまつ・じろう)

1947年、兵庫県生まれ。作家。『春陽のベリーロール』(関西書院)で織田作之助賞、少年小説『ペンフレン
ド』で毎日児童小説賞を受賞。『人びとの走路』(NHK出版)、『テーブルの出来事』(幻冬舎MC)などの著書がある。

淡いピンクの小さな花を咲かせたかと思えば、すぐにはらはらと散り去る。桜はその夢と現(うつつ)のあわいのような幻想的な姿で古(いにしえ)より多くの人々を魅了してきました。自然豊かな美濃では日本三大桜の一つ、淡墨桜(うすずみざくら)が圧倒的な存在感で咲き誇るそうです。樹齢1500年ともいわれるこの老桜をはじめ大切に守り育てられてきた名木が残る美濃に、いよいよ春がやってきます。

* * *

老桜にして今なお無数の花を咲かせる淡墨桜を一目見ようと訪れた美濃で、桜の魅力に捕らわれ、桜とともに生きる人々に出会いました。この地では暮らしのなかに桜がしっかりと溶け込んでいました。

淡墨桜の主治医に会う

ホームが桜に覆われる樽見鉄道の日当駅。開業以来変わらぬ風景が広がる (切畑利章=写真)

 大垣駅から樽見(たるみ)鉄道に乗り換え、終点の樽見駅に着くころには雪がちらほら舞っていた。山々は雲に覆われ姿が見えないが、吹き下りてくる風には冷気がたっぷり。ぶるぶる震える。春に咲かせる花のため、厳寒のなかじっと力を蓄えている桜の木と会うにはふさわしい日だ、と思うことにする。

 「やあ、寒いでしょう、標高200メートルだけど高地やからね」

 公園の休憩所で手招きしているのは浅野明浩さんだ。浅野さんは樹木医である。平成6年(1994)にたいへんな難関をクリアし、第235番目、4期生として資格を得た。以後、ずっと根尾谷の淡墨桜の主治医として寄り添ってきている。そのベテラン樹木医と桜のそばでお会いできることになったのだ。

 「あれです、大きいでしょ」

 さりげなく指差す先に巨人が立っていた。筋骨たくましい下肢が雪の大地を踏みしめ、36本の丸太に支えられた五本の枝をぐいと突き出し、それは天から下る何ものかを受け止めているかのようである。淡墨桜だ。

樹木医の浅野明浩さん(右)と筆者。膝まですっぽりと埋まるほどの雪に覆われた淡墨桜の前で(藤原博龍=写真)

 毎日、診察に来られるのですか?

 「そう、ほぼ毎日だね。この正月も元日から雪下ろしをしたし」

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