独自の発想でつくり上げた
終末期のための病院
人に寄り添う医療の可能性

大塚宣夫(医師・医療法人社団慶成会会長)


吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

この熱き人々

»最新記事一覧へ

高齢化が急激に進みつつあった70年代、独自の発想で終末期のための病院をゼロからつくり上げ、育ててきた。豊かな最晩年の実現をめざし人に寄り添う医療の可能性を追求する。

 広々としたエントランス、壁にはアート作品、花壇には四季の花々。ギャラリー? それともリゾートホテル? 一瞬、勘違いしてしまいそうだが、ここは「よみうりランド慶友病院」。病院なのである。しかし、外来受付はない。すれ違う入院患者はみんな高齢。車椅子の人も多い。昼下がりの院内には、リハビリに励む人、映画を見ている人、ジグソーパズルに取り組む人、新聞を読む人、まるで自分の家のように時間を過ごしている。夕暮れにはお酒を楽しむ姿も……。

 「入院している方の平均年齢は87歳。ここで暮らす余命が半年以内という方が4割から5割くらい。治療目的の病院ではなく療養病床中心で、高齢者が人生の残された時間をできるだけ苦痛がなく、家族と穏やかな時を過ごすための終(つい)の棲家なんです。医療はこれまでどうやって命を救うかということに真剣に向かってきたけれど、治療が不可能になると延命するしかない。ここは治療と延命のためではなく、高齢で治療ができない方、延命を望まない方の病院になります」

 まず医療ありきの発想から、まず生活ありきでそれに医療と介護がどう寄り添ったら人は幸せな最期を迎えられるのかと発想を大逆転させて、青梅慶友病院とよみうりランド慶友病院を創設したのが、医療法人社団慶成会会長の大塚宣夫である。院内を案内してくれた大塚は、白衣姿とはミスマッチの人なつっこい笑顔が印象的で、白衣がなければ僧侶のようにも見える。

 「ホスピスは、がんかエイズの末期の人は入れるけれど、高齢者で認知症やパーキンソン病などがん以外の病気で治療がすでに不可能な人たちは、治療目的の病院から出ると行き場をなくしてしまう。今、医療は医療機関で医療保険、介護は介護施設で介護保険、生活は個人で年金と分断されていますが、その3つがかかわっていないと人生の最期を豊かに過ごすのは難しいんです」

 生活と介護と医療の3つを融合するのは必要だが、難しい。その難しいことに大塚は挑み続けているのである。

 「高齢期も人生の一時期であり、どんな状況でも生活する場と環境が大事だと思うんです。生活するのに必要だから医療があり介護がある。医療は後方に控え必要な時に出ていくもの。この病院は看護師中心の仕組みで動いています。看護師は介護や医療の知識もあり、患者さんの状態や生活パターンも熟知しているから、今何が必要かわかる。コーディネーターは看護師で、点滴ひとつでも医師は看護師長と相談します。治療目的の医療と人の最期に寄り添っていく医療は全く違うんです」

1
nextpage
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「この熱き人々」

著者

吉永みち子(よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

WEDGE Infinity S
ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍