「forced labor(強制労働)」と「forced to work(働かされた)」の違いを述べよーー。意地の悪い英文法の試験のような問いが、急に世間の耳目を集めることになった。「明治期日本の産業革命遺産」の世界文化遺産への登録を巡る騒動で出てきた問題だが、政治家のブログを含むネットはもちろん、新聞などのオールドメディアにも混乱が見られた。今回は、この2つのフレーズについて考えてみたい。
まず、当事者間でほぼ意見の違いがないと思われる部分を確認したい。
「明治期日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を決定した7月5日の世界遺産委員会において、日本は「1940 年代にいくつかの施設において、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である」という内容を含む声明を文書で配布した。この文書は、「脚注」として正式文書に加えられた。日本政府代表の佐藤地(さとう・くに)ユネスコ大使が登録決定後、英語でこれを読み上げた。この文書の「働かされた」が、「forced to work」である。
韓国政府代表の趙兌烈(チョ・テヨル)第2外務次官は佐藤大使に続いて発言を求め、佐藤大使の発言から上記部分を引用しながら「日本政府の声明を厳粛に受け止める」と表明。日本が声明で表明した措置をきちんと講じるよう世界遺産委員会などが注視することを求めつつ、登録に賛成する考えを示した。
日韓は6月21日に東京で行った外相会談で、両国がそれぞれ推薦している案件の世界遺産への登録で協力することに合意していた。ところが、韓国が6月末に提示した発言草稿に「forced labor」という言葉が入っていたことに日本が強く反発し、再び対立が激化した。調整の結果、韓国側はこの言葉を削除したが、調整が難航したため委員会審議の日程が1日遅れた。
韓国外務省は登録決定を受けて、「1940年代に韓国人たちが本人の意思に反して動員され、過酷な条件下で強制的に労役したという厳然たる歴史的事実を日本として事実上初めて言及(した)」と評価する報道向け資料を公表。韓国メディアは、政府の説明通りに「強制労役」という言葉を使う会社と、一歩進めて「強制労働」と書く会社に割れた。
岸田文雄外相らは採択後の取材に対し、「forced to workという発言は、強制労働を意味するものではない」と述べ、政府の公式見解を改めて確認した。
外相会談の「合意」で食い違い
自民党の佐藤守久参院議員は7月15日、自民党外交部会等合同部会で外務省が行った説明内容を自身のブログに紹介した。佐藤議員によると、日韓両国の代表団は最終的に以下の3点に合意したという。
・「強制労働」(forced labor)との用語を使用しない
・日韓間の請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解 決済み
・韓国で係争中の日本企業の裁判へ悪影響を与えてはならない