ソウル中心部・竜山にある国立中央博物館の隣に10月、国立ハングル博物館がオープンした。地上3階、地下1階で、床面積は約1万1000平方メートル。展示室や子供用の体験コーナー、外国人向け教育スペースなどを備えた立派な施設だ。文化体育観光省のプレスリリースは、「ハングルの文字・文化的価値を広く知らしめ、科学・産業・芸術などさまざまな分野とのコミュニケーションを通じて、ハングルの新たな価値を創出する中心機関になる」と意義を強調している。
ハングルは民族の自負心を象徴する存在に
ハングルは、朝鮮王朝きっての名君とされる王・世宗(セジョン)が「普通の人々が簡単に学べて使える文字」を作るよう学者たちに命じ、1443年に作られた人工の文字だ。ハングル制定後も公文書は漢文だったが、日本語教育が重視され、韓国語が迫害された植民地時代を経て、ハングルは、民族の自負心を象徴する存在のようになった。日本の敗戦によって植民地支配から解放された後、ハングル重視政策が取られるようになり、近年は、日常生活では漢字を使うことが極端に少なくなっている。
唇や舌、のどといった発音器官の形を象形し、性理学(朱子学)と陰陽五行思想に基づいて作られたハングルは、非常にユニークかつ科学的な文字だ。『ハングルの誕生』などの著書を持つ言語学者の野間秀樹氏は、「ハングルの創製と成長は、東アジアにおける知の革命だ。当時の学者たちは、現代の言語学に匹敵する水準の知を駆使した」と評する。
韓国人は調子に乗って、「ハングルは世界中すべての言語をきちんと表記できる」と豪語したりする。あるいは「世界で最もすぐれた文字だ」と言うこともある。実際には、ハングルで表記できない発音は日本語にも英語にもあるし、文字に「すぐれた」とか「劣っている」などないだろうと思うのだが、これも、序列好きの韓国ならではの発想といえるだろう。
チアチア族にハングルを広めようとした一人の女性
ハングル博物館のことを聞いて、私は、2年前に取材した女性のことを思い出した。取材はしたものの、新聞記事としてまとめるタイミングを見つけられず、記事にはできなかった人物だ。今回は、その女性について紹介してみたい。韓国人のハングルに向ける情熱の一端をかいま見ることができるからだ。