西側の失政が難民危機招く
EU、割当制巡り“東西対立”も激化


佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE REPORT

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欧州に押し寄せる難民の受け入れを分担する「割当制」をめぐり、欧州連合(EU)は推進派のドイツなどに対し、ハンガリーなど東欧諸国が反対、新たな「東西対立」の様相を呈している。しかし、今回の危機は、欧米諸国がシリアなどの紛争の政治解決に失敗したことが原因に他ならない。

自ら招いた危機
展望のないままカダフィを殺したツケ

9月5日、ハンガリーからオーストリア国境の町、ニッケルスドルフに到着した難民の親子(Getty Images)

 難民の大量発生については、米有力紙が「早くから予期されていた」と指摘するように、各国とも予測していた事態だった。にもかかわらず、欧米諸国は、最大の難民発生源であるシリア内戦の政治解決には全力で取り組んではこなかった。ジュネーブの和平交渉を早々と断念し、結果的に過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を許す羽目にもなった。シリアでは、米主導の有志連合がISの拠点を空爆しているが、紛争解決の見通しは皆無だ。

 内戦5年目のシリアでは26万人が死亡、1100万人が家を失い、約500万人がレバノン、ヨルダン、トルコなどの近隣諸国に流出した。近隣諸国はこれら大量の難民の負担に苦しみ、難民らもキャンプ生活の悲惨な境遇から抜けだそうと地中海を渡って欧州への脱出を試み始めた。

 シリア難民とは別に、内戦中のリビアからイタリアを目指す北アフリカ諸国の難民らは、船が沈没する事故が相次ぎ、今年だけで2600人以上の命が失われた。しかし、リビアの混迷は、元はと言えば、「アラブの春」の民衆革命の際、当時の独裁者カダフィ政権を北大西洋条約機構(NATO)軍が確固たる将来展望のないまま空爆でつぶし、その後の混乱をただ放置したのが大きな原因だ。

 こうしたことから「難民危機は欧米が自ら招いた結果だ」(中東専門家)との指摘が多く、国連の人道担当の高官も「これは政治解決に失敗した代償だ」と欧米の取り組みに批判的だ。欧米諸国はシリア内戦について、基本的にアサド政権を存続させないというかたくなな姿勢に終始し、政権を支持するロシアやイランと対立したままだ。だが、皮肉なことに今回の難民危機により、内戦終結に向けた政治解決を模索する動きが強まるかもしれない。

揺らぐ「自由移動政策」

 こうした欧米の失政の一方で、難民危機はEU統合の最大の成果の1つである域内の「自由移動政策」にも大きな影を落としている。難民たちが比較的容易にEU各国を移動できるのは、加盟28カ国の域内移動の自由を容認した「シェンゲン協定」があるからだ。各国の国境で出入国審査を受けることなく、フリーパスで他国に入国することが可能になった。

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佐々木伸(ささき・しん)

星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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