中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年10月2日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 リーマンショックから1年が経過した。深刻な金融危機が生じたものの、主要国の腰の入った経済金融政策などによって金融システムの底割れが回避され、世界経済も底入れしつつあるのは大いに結構なことである。

 もっとも、リーマンショックを契機に、いままでの金融経済システムに大きな疑問が投げかけられ、新たな方向が模索されている。そして、いままでの余りに市場主義に偏した経済の考え方にも見直す機運が高まっている。

 日本で「友愛社会」「国民の生活が第一」を旨とする民主党が政権をとったのも、市場主義偏重から市場主義と社会の安定とのバランスを取る動きと見ることもできるし、その動きは市場主義の本家本元米国でも同じである。

経済潮流は「市場と社会」の両立へ

 米国でも、政権が市場重視の共和党から社会の安定重視の民主党に移行し、オバマ大統領が国民皆保険に向けた動きをしようとしている。リーマンショック後の経済政策の潮流は、成長から保障・分配に、また小さな政府から大きな政府に変化しつつあると見ることもできる。

 この点に絡んで、先日来日したフランスの碩学ジャック・アタリ氏(学者。元欧州開銀総裁でミッテラン元仏大統領特別顧問)の話を聞く機会があった。そこで興味深かったのは、アタリ氏が「友愛社会」についての受け止め方を聞かれた際の回答である。

 彼は、「友愛とはフランス革命の標語である自由、平等、博愛の博愛と理解している。自由ばかりでは失敗することは今回の米国が示した。平等ばかりでも、かつての計画経済のように破綻する。博愛の良さは、それが自由と平等をつなぐ意味を持ちうるところにある」と答えたのである。

 経済政策の潮流が変化しつつあるとしても、一方の行き過ぎから反対側の行き過ぎへと極端に振れても困る。いままでアメリカ型の市場メカニズムにもっぱらウエイトを置く経済システムが良いとされてきたものの、当面は市場メカニズムとともに社会の安定にもウエイトを置く欧州型の福祉国家的な経済システムが注目される局面に入ったと見るのが穏当であろう。

「成長できる福祉国家」に日本人は好意的なはず

 さて、日本の新政権の経済政策をどう見るかである。世界の経済潮流が変化しつつあり、その流れに乗っているとしても、分配にウエイトが置かれるばかりでは成長が疎かになるのではないかとの疑問もある。特に、成長力に乏しく成長戦略が他の先進国以上に必要とされる日本経済においては、成長からウエイトが移る分配のパイ自体が増えないどころか減るような状況では先行きに明るい展望など描けない。

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