2024年4月24日(水)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年10月2日

 前々回の当コラムで、民主党のマニフェストに、バラマキを経済成長につなげる戦略が不足しているとの見方を示したが、筆者の所属するみずほ総研では民主党政権がそのマニフェストを全て実施した場合、2010年度の経済成長率は個人消費中心に1.0%押し上げられ、2011年度以降は押し下げが続き、最終的にはゼロに近い若干のプラスとの試算をしている。

 こういう結果になるのは、主として予算の組み替えで財源を捻出するとしているからだ。全額予算を使い切る公共事業などから、一部が貯蓄に回ってしまう個人への補助金、手当へ単純に予算を移行させるだけでは、GDPへの波及効果が小さくなる。

 ここで注目されるのは、民主党が福祉国家的な経済システムを目指すならば、福祉国家流の成長戦略があることである。すなわち、国民が福祉向上に満足すれば将来不安が軽減して貯蓄の一部が消費に回る、といったプラスの経済効果が考えられる。このような福祉国家流成長戦略は、いままで市場メカニズムにウエイトを置いたアメリカ型経済モデルでやってきて、欧州諸国に比べて社会保障の充実に余地がある米国と日本でとりわけ大きな効果を発揮するように見える。

 しかし、米国では、オバマ大統領の国民皆保険改革に対して、自助努力と市場メカニズムを重んじる国民の抵抗感が強い。それは、すでに民間保険などで医療費がカバーされている大多数の国民にとって、増税や負担増になるのではないかと強く思っているからでもある。しかも、そこには成長戦略が窺えない。

 一方、日本の場合はどうだろうか。米国ほどには自助努力と市場メカニズムを重視しているようには見えないし、社会の安定や社会保障充実への期待も強い。しかも、世界の中で最も早く少子高齢化が進む国でもあり、その分将来にわたって安心できる年金・医療制度や少子化対策が必要とされている。リーマンショックを契機とした経済潮流の変化に最も敏感であり、政策次第で最もプラスの効果が挙がりやすいのは日本かもしれない。

 もっとも、福祉国家ならでは内需中心の成長戦略が成り立つためには、ひとつ大きな前提がある。それは、国民が福祉政策に信頼を寄せ、その持続性を当然視することである。そして、政策が信頼を得るには、政策が充実していることに加えて、財源が確保されていること、改廃が簡単にはなされないとの安定感を備えることが必要である。

日本が新たな先進国の成長モデルを創造するために

 リーマンショックからまだ1年しか経っていない現状で、新たな潮流とその経済システムの方向性を断言するのは早すぎるかもしれない。しかし、以前からあった、新自由主義が市場にウエイトを置きすぎていて社会に重きを置いていないとの指摘は、やはり再認識する必要はありそうだ。

 日本の今般の総選挙で国民が示した選択は「改革(リフォーム)から変革(チェンジ)へ」と称されるが、その背景にもやはり世界経済の潮流変化があると見ることができるのではないだろうか。

 ちなみに、麻生政権の政策の軸足が小泉政権以来の改革路線からぶれたとも見られているが、麻生政権が安心社会を重視する考え方を打ち出していたことからすれば、これも立派に潮流変化に対応するものであったと言える。


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