オトナの教養 週末の一冊

2015年9月27日

»著者プロフィール
著者
閉じる

中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

 タイトルから著者の並々ならぬ迫力を感じさせる。そして取材とは何かということを強烈に教えてくれる力作である。

 まず第1章から鮮烈な印象を読者に与える。日本で凶悪事件や重大事故を起こした末に、母国ブラジルに逃亡した犯罪者を「地球の裏側」まで追いかけて取材をかける場面は圧巻だ。いずれも静岡県内で死亡ひき逃げ、殺人などの事件・事故を起こした日系ブラジル人が、日本での訴追を逃れ母国に逃げ帰ったケースだ。

 日本とブラジルの間に犯罪人引き渡し条約はない。容疑者がわかっているのに、日本の当局は手も足も出せない。このもどかしさと「逃げるが勝ち」は絶対に許さないというジャーナリスト魂が著者を突き動かし、取材へと向かわせる。居場所を突き止め、直接面会し、犯人に面と向かって犯罪事実を突きつけ、警察への出頭を促す。そしてその模様をあますところなくテレビカメラで記録する。経験を積んだジャーナリストでもなかなかできることではない。身の危険があるし、凶悪犯と向き合う恐怖もある。それを克服して立ち向かう。取材の結果は、日本とブラジルの二か国で番組として放送され、その後「代理処罰」という形でブラジルに逃げた容疑者は母国の検察当局に訴追され、有罪となった。

 このほか著者は、桶川ストーカー殺人事件や足利事件など、取材で感じた矛盾や疑問点を放置せず、独自に調査を重ね、警察の怠慢や冤罪事件の全体像へと迫ってゆく。その果敢な姿勢が一度は事実として固まったかのように見えた構図を突き崩し、あらたな真実を明らかにする。

 ここで敬服するのは著者の取材に対する姿勢である。コツコツと関係者を訪ね歩いて話を聞く。「小さな声を聞け」を取材のルールとして自分に課し、証言を積み重ねる。いずれもジャーナリストにとっては必要なことばかりである。だがそれを貫徹出来る人はあまり多くはいない。ゆえに筆者の真摯な取材姿勢に感服するのである。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る