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2015年10月7日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所客員研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 9月、ニューヨークの国連本部で第70回国連総会が開催された。その締めくくりとして28日に始まった各国首脳の一般討論演説では10年振りにプーチン大統領が登壇し、現在の世界や注目されるシリア情勢について演説を行った。
以下では、その内容から、プーチン大統領の描く現在の世界と今後の戦略について考えてみたい。

 まずは、その冒頭部分を見てみよう。

国連で演説するプーチン大統領(GettyImages)

(翻訳)
尊敬する代表の皆さん!尊敬する国連事務総長殿!尊敬する各国首脳の皆さん!紳士の皆さん!

 国際連合の70周年は、歴史と我ら全員の将来を考えるのによい機会です。1945年、ナチズムを打倒した諸国は、戦後世界の秩序を築くべく努力を結集しました。

 思い起こしたいのは、国家間関係の原則に関する重要な決断と、国際連合の創設に関する決断は、我が国のヤルタにおける反ヒトラー連合の首脳会談で採択されたということです。ヤルタ体制は、この星で20世紀に起こった二度の世界大戦に出征した何千万という人々の生命に実際に敬意を払ったものであり、過去70年間の過酷で劇的な出来事の中で客観的に人間性を保つ助けとなり、世界を巨大な波乱から救ったのです。

 国際連合は、その正当性、代表性及び広範さにおいて比類なきものであります。たしかに過去、国連の場においては少なからぬ批判がありました。これは効率性の不十分さを示すものであり、特に国連安保理のメンバー国間では重要な決定に関して覆いがたい対立があります。

 しかし、申し上げたいのは、国際連合が存続してきた70年間において、意見の相違は常に存在していたということです。そして拒否権も常に行使されてきました。米国も、英国も、フランスも、中国も、ソ連邦も、そして後のロシアもこれを行使してきました。これは多面的な代表機関ではごく自然なことです。国際連合の基本として、そこでひとつの意見が圧倒的であるということは想定されていなかったし、今後もないのです。この組織の本質とは、妥協を模索し、生み出すことなのであり、多様な意見や観点を考慮に入れることがその力になっているのです。

 国際連合の決定を巡る議論は、決議という形で合意されます。合意に至らない場合については、外交官達の言うところの「うまくいったりいかなかったり」ということになります。そして、この手順を外れれば、いかなる国の行動であっても、それは非合法で、国際連合憲章と現代の国際法に違反することになります。

(翻訳ここまで)

ロシアが国連を重視する理由

 演説冒頭でプーチン大統領が打ち出して来たのは、国連こそが国際秩序の主要枠組みであり、今後もそうでなければならないというテーゼである。ロシアはこれまでも、各種の国家政策文書や首脳の演説において、一貫して国連の重視を唱えてきた。これには2つの側面がある。

 第一に、ロシアはソ連から国連安保理の常任理事国という地位を継承しており、低下した国力に比して大きな政治力を保持することができた。したがって、ロシアが国連を主要な国際秩序の地位に留めなければならないと主張することはある意味で当然と言える。

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