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2015年10月23日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

「WHOは何もわかっていない」
「少なくとも僕たちは因果関係を否定していない」

 HANSを提唱する西岡久寿樹・一般社団法人日本線維筋痛症学会理事長(東京医科大学医学総合研究所)は筆者の取材に対してこう言った。「WHOは何もわかってない。僕も知り合いがいるから聞いてみたけど、ちゃんとやってない」

 さらにはこうも言う。「子宮頸がんワクチンはB型肝炎ワクチンに酷似している」

 かつて、子宮頸がんワクチンと同様、アジュバント(免疫応答を高めるために添加される微量のアルミニウムなどのこと)による免疫異常がおきると言われたワクチンがあった。マクロファージ筋膜炎(MMF)を引き起こすと言われたB型肝炎ワクチンだ。

 しかし、世界中の専門家が各国で調査を行い、データを検討した結果、病気とワクチンの間に因果関係があることは完全に否定。それでも、ワクチンの安全性を疑う声は収まらず、WHOは99年、02年、04年と3回にわたりそれを否定する羽目になったが、現在、日本含む世界中で広く接種され、先進国の多くでは定期接種となっている。 

 特に医療従事者であれば、針刺し事故による感染を防ぐため必ずこのワクチンを接種するが、西岡氏はこのワクチンを接種していないのだろうか。

 「海外でも日本でもB型肝炎ワクチンとMMFの因果関係は否定されていませんか?」と筆者が問うと、西岡氏はこう答えた。

 「いや誰もしてないですよ、少なくとも僕たちは」

 西岡氏は線維筋痛症という難病の研究に尽力してきた人物でもある。こうした医師がHANSという新しい難病を掲げることで、思春期の少女たちを苦しめる症状に目が向いたこと自体は良かったともいえる。しかし、ワクチンに心身の反応を起こす少女たちがいることと、ワクチンの良し悪しは別問題だ。もちろん、100%安全な風邪薬がないように100%安全なワクチンもない。よって、ワクチンによる重篤な副反応が例外的に生じることはある。しかし、「ワクチンのせいだ」とする少女たちの訴えすべてにそのまま同調し、エビデンスなしに「新しい薬害を見つけた」と主張することは、本当の意味で彼女たちの苦しみに向き合うことなのだろうか。

 「ワクチンのせいかもしれない」と思う。「ワクチンの被害者だ」と周りの大人たちが言えば、やっぱりそうなのだと思う。中には、一度、ワクチンの被害者になってしまったがために、ワクチンの被害者でなくなるきっかけを失って苦しんでいる少女もいるに違いない。

子宮頸がんワクチン導入以前、思った通りに身体を動かせなくなったBさんは、心因性との診断を受け、その後症状は自然に治ったという
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 いま、日本はワクチンを否定しなければ少女たちが救われないというようなドグマに陥っている。しかし、ワクチン接種による多くの女性たちの病気の予防と、症状に苦しむ少女たちの治療や救済は両立する。

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