2024年11月24日(日)

World Energy Watch

2015年11月27日

途上国でも石炭火力新設に逆風が

 米国、英国のように先進国では、石炭火力からの発電量を削減する動きが出ているが、今後経済成長に伴い電力需要が伸びる途上国において石炭火力の新設が続けば、世界全体では石炭火力からの二酸化炭素が増加する可能性が高い。

 途上国の石炭火力新設に歯止めをかけようとしたのはオバマだった。2013年6月米国内の既存石炭火力からの排出抑制策と同時に、途上国の石炭火力設備には米国輸銀は原則融資を行わないと発表した。この米国の動きに世界銀行、欧州復興開発銀行などの国際金融機関も追従した。

 先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の場でも、加盟国の輸出信用機関(日本であれば、国際協力銀行などが該当する)による途上国の石炭火力発電設備への公的支援の是非について、2013年11月から議論が開始された。米国、フランスが途上国の石炭火力設備への公的支援を禁止したのに対し、石炭火力設備の製造と輸出を行っている日本、韓国、ドイツが禁止には消極的だったと報道されていた。

 OECD内ではCOP21までの合意が目指されていたが、11月18日にOECDは以下内容の合意に達したと発表した。「エネルギー貧困問題に直面している途上国への中規模(30万から50万kW)の超臨界圧発電設備、より貧しい途上国への小規模(30万kW以下)な亜臨界圧発電設備を例外とし、大規模な亜臨界、超臨界石炭火力発電設備への支援を禁止する。CCSが付帯する場合には例外とする。2017年1月1日から発効する」。

石炭火力は悪者なのか

 地球温暖化問題を考えれば、石炭火力を廃止することは望ましい。しかし、エネルギー政策では他にも考えるべき点がある。競争力と安全保障だ。シェール革命で天然ガス生産量が輸出可能のレベルまで増加し、価格も下落した米国、送電線と天然ガスパイプラインが大陸と繋がっている上に、数量が落ち込んでいるものの、国内需要の約50%を賄う北海からの天然ガス生産を持つ英国。両国と日本の置かれている状況は大きく異なる。

 図-3が示すとおり、日本の発電の約30%は石炭が担っている。原発の再稼働が進めば比率は下がると思われるが、地政学的なリスクと価格競争力を考えれば、大きく依存率を下げることは困難だ。

 途上国での石炭火力設備導入には、大きな抜け穴がある。OECD国ではない中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の存在だ。公的な支援を受けることができなくなる日本、ドイツの発電設備メーカーは、中国メーカーとの競争で不利になることは明らかだ。

 2013年に途上国の石炭火力設備への融資禁止を決めたこともあり米国はAIIBに冷淡だったが(温暖化防止のレガシーにこだわるオバマはアジアインフラ投資銀行を受け入れられないhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/4908?page=1)、AIIBに参加した英国などは途上国への石炭火力設備への融資案件にどう対応するのだろうか。相対的に効率の悪い設備が導入されることになれば、温暖化対策には逆効果だ。

 今回のOECDの取り決めは2019年に見直されることになっている。最も効率よく二酸化炭素を削減する観点から実効性を検証することが必要になる。温暖化、気候変動防止の観点から日本メーカーの出番はまだ続くはずだ。

  
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