さて、こうした状況につき、中国の専門家はどのように見ているのか、前回の本コラム「中国の爆買いが無くならないのはなぜか」で言及した、日本の大学の企画による上海で行った取材と講演において、中国の株式市場と中国の著名ブロガー(経済の専門家)から聴取した今後の中国経済の見通しについて整理すると以下の通り。ここでも中国経済破綻の可能性について彼らの意見を聴取した。
著名な株式市場の専門家の意見
⒈ 中国経済の現状認識。中国経済が1992年から2007年のリーマンショックまでの15年間もの間高度成長を維持できたのは、輸出主導型の経済運営に成功したからに他ならない。経済学の教科書によれば政府が市場経済に介入する事は経済活力を削ぐ結果になるというのがセオリーであるが、企業の輸出を振興するだけであれば企業は外国の市場で真っ当な市場競争にさらされるので、その企業は健全な競争力を維持する事ができ、上記セオリーが言うデメリットをかろうじて打ち消すことに成功した。この発展のモデルは元々日本が明治維新以降に始めたことで、中国を初めとした東アジアの国々の発展は基本的にこのモデルに沿っている。中国においてはこの間多くの輸出競争力を持った優秀な民間企業が育成される結果となり、こうした企業が又中国の経済発展を支えていた。
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⒉ しかしながら、中国の労働者の権利意識が高まるなかで労働コストが上昇し、また、同時に米国からの元高圧力もあるなかで中国は成功を収め、競争力のある企業群が生まれ定着し、徐々に輸出よりも内需拡大をより重視する方向へ舵取りをし始めた。
本来であれば、内需拡大は経済発展にとって望ましいことであるはずだが、中国においては、政府の経済に対する関与が強すぎるために、内需で勝ち残る企業は結局政府が優遇し多大な権益を有する国有企業と一部の政府のお墨付きを得た一部の民営企業ということになり、公平な競争が実現せず、せっかく15年かかって育成した輸出競争力を持った企業が衰退、廃業する事態に陥った。
この点は、現在、中国の経済がかつての勢いを失った大きな原因の一つであると考えている。2007年に施行された中国の労働契約法は、中国の労働者の権益保護を強化したもので、先進国並みまたはそれ以上に労働者よりのものとなった。これは、一見労働者にとってはいいことであるようであるが、まだまだ産業の高度化が進んでいない中国においては、導入が尚早であったと考えている。これにより中国企業の労務コストは更に高まり、中国の経済成長の足かせとなっている。
⒊ 2007年のリーマンショックの影響は中国にも及び中国は4兆元(56兆円)の公共投資で乗り越えようとした。これは内需拡大の流れに沿ったものであるが、この公共投資は、社会全体としては大きな非効率でそれ以降中国の経済成長は鈍化傾向にあり、それまでの成長基調は転換点を迎えた。もし、この時にこうした政策をとらずに輸出を振興する政策をとっていればここまでの経済の減速はなかったと考えている。内需に舵取ることにより皮肉にも経済学の教科書のセオリー通りの状況が生じてしまった。
⒋ この他、中国経済はある意味日本経済がたどった道のりを後追いしている。経済の高度成長に続く、環境問題、元高圧力、バブルの発生、成長鈍化のなかでの通貨増発、老齢化問題などなど。そうした意味で、中国経済もこれから、成長鈍化の流れはしばらく続きそう。かといって、崩壊するということはあり得ないし、日本への旅行者が減るということもない。それだけの中産階級の蓄積があるということ。何を持って崩壊というのかよくわからないが、日本だってバブルの崩壊とその後の20年間に及ぶ経済の低迷を経ても崩壊せず、日本の人々は幸せな日々を送っているではないか。
多くの中国の人民は、まだまだ慎ましい生活を送っており、今後多少の困難があっても乗り越えることができるものと信じている。個人的には、現政権の執政が続く間はこうした流れは変わらず現状維持、ただ、その後の政権の執政時には、さらなる飛躍が期待できるかもしれないと考えている。