WEDGE REPORT

2015年12月19日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

 クラウドファンディングは今や米国では個人起業家にとって必須のものとなっている。手軽にネットで広く浅く資金を募り、自分のアイデアを形にできる、という新形態の投資はごく日常的なものになりつつある。

 クラウドファンディングとは自分のビジネスアイデアを実現したい人が計画の詳細をネット上で発表、目標金額を設定する。プロジェクトへの賛同者が多く、出資が目標金額に期限内に達した場合のみ、資金が起業家にわたるという仕組みだ。目標とした出資を受けた起業家はビジネスを実現し、それによって得た利益を出資者に広く配分する。

 ところが、開始後まだ5、6年のクラウドファンディングに対しペンシルバニア大学などが追跡調査を行った結果、「投資家にとってはリスクが大きい」状況だということが判明した。

 今回の調査はクラウドファンディングの中でも代表的なキックスターター(2009年創設)について、ランダムに選んだおよそ4万7000人にアンケート調査を行った結果を集計したもの。それによるとおよそ9%の出資者が「約束された報酬を受け取っていない」と答えたという。

 クラウドファンディングの報酬は、起業側が提示するもので金銭に限らない。例えば商品開発であればその商品が報酬、という場合もある。いずれにせよ資金を集める側は最初にビジネス計画、出資者への報酬などを明記した上で出資を募るのだから、約束を果たさないのは重大な契約違反に該当する。しかし、「約束された報酬を受け取っていない」と答えた人のうち、「出資金が戻ってきた」、と答えたのはわずか13%だったという。

 調査は外部によるものだが、キックスターター側も今回の結果をほぼ認めた。「キックスターターのような出資制度には透明性が必要だ。9%前後の報酬未払い率は、クリエイティブなアイデアを現実にする、というコンセプトとして妥当と考える。しかしこの未払い率により出資をためらう人が出てくる、というのも当然予想できる」とキックスターター側はコメントしている。

 さらに調査は報酬未払いが起こる確率の高い要因にも踏み込んでいる。それによると、出資総額が1000ドル未満といった小さなプロジェクトの場合、未払い率は13%にまで高まる。また、映像、テクノロジー、食品系のプロジェクトの未払い率は音楽系のものより高めとなっている。ただし男女差はほとんどなく、年齢、起業側の人数なども未払い率を左右する要素にはなっていない、という。

 一方、キックスターターで資金集めに成功する率は3割を超えている。それだけ大勢がキックスターターのサイトをチェックし、興味のあるプロジェクトに対し出資しているのだ。

1000万ドル集めたトラベルジャケット

 今年、キックスターターの歴史始まって以来という成功を収めたプロジェクトが登場した。自ら考案したトラベルジャケットの製作を提案したインド系米国人の夫婦によるものだ。目標金額は2万ドル、報酬は仕上がったジャケットだった。ところが8万人以上がこのプロジェクトに賛同し、集まった金額はなんと1000万ドルを超えた。

 過去には2000万ドル以上を集めたプロジェクトも存在するが、目標額との差においてこれだけの賛同を集めたものは今回が初めてだ。

 立案者にとって、これは成功であると同時に問題でもある。約束したジャケットの送付期限は11月だったが、あまりの注文数の多さに対応しきれず、出資者に対し遅延を申し出る結果となった。さらに、当初は中国の縫製工場から船便で郵送する予定が、遅延のために航空便での配送に切り替えられた。利益は相当に薄くなるが、立案者側は「一時の利益にこだわるよりも出資者の信頼を勝ち取り将来のビジネスにつなげることの方が大切」と判断した、という。

 この成功例は米国では大きく報道され、人々に起業への夢を抱かせることになった。しかし今回の報酬未払い9%という調査結果により、キックスターターそのものへの信頼が減少する恐れもある。

 クラウドファンディングの出資は数十ドルから多くても数百ドル程度。この金額で起業を後押しするという夢を買うのか、それとも実利を優先させるのか。調査報告後にクラウドファンディングへの出資に変化が見られるのか、今後に注目が集まる。

  
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