2024年4月29日(月)

WEDGE REPORT

2015年12月12日

 日本では、円安は幸せ、円高は不幸、という風潮があるが、本来は通貨安にも通貨高にもそれぞれメリットとデメリットがある。

 通貨安(日本にとっては円安、米国にとってはドル安)は輸出を有利にする。日本の立場で考えるならば、8000円で作ったものを1万円相当額で売って儲ける場合、1ドルが80円から120円に円安ドル高が進むと、1万円相当額で売るということは125ドルで売っていたものを83ドルで売ることになる。125ドルのものを83ドルにまで大幅値引きしても日本円で2000円の儲けになるのだ。

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 あるいは8000円で作ったものを100ドルで売るという具合には、1ドルが80円であれば8000円で売って儲けはゼロ、ところが1ドルが120円になれば同じ100ドルで販売しても1万2000円で売って大きな儲けとなる。これが通貨安が輸出に有利に働くメカニズムだ。当然ながら、日本にとってだけではなく、他の国にとっても自国通貨安は自国の輸出を有利にする。通貨高は逆のことが起きて輸出を不利にする。

 一方で通貨高は輸入を有利にする。こちらは簡単な話で、100ドルのものを輸入する場合に1ドルが120円から80円に円高が進めば1万2000円で輸入していたものを8000円で輸入できることになる。反対に通貨安が進めばより高い値段で同じものを輸入することになる。これが通貨安がインフレを招くメカニズムだ。

 ここでおさえておきたいのは、鉄などの原材料や資源を輸入して製造・加工して完成品を輸出する場合、円安が進めば当然ながら輸出は有利になるが、原材料の輸入価格も同時に上がってコストも上がってしまい、本来は円安で万々歳とはならない。売上数量が増える分の恩恵はあっても、利益率は変わらないはずだ。もしも売上数量が増えるだけでなく利益率も改善しているならば、そこには円安によって原材料価格が上昇してコストが上がっているのに、原材料を加工して作った部品を従前と同じ販売価格で販売し続け利益率を下げている下請け会社があるはずだ。

 ドル高・円安が進行すれば、米国にとっては輸出が不利に、輸入が有利になり、インフレ率を低下させる圧力が働く。一方、日本にとっては輸出が有利になり、輸入が不利になり、インフレ率を上昇させる圧力が働く。2015年の米国企業の業績が悪いのはドル高による輸出への影響が少なからずある。さらには、輸出をしていない会社でも、海外売上のマイナスという形のネガティブインパクトがある。

 例えば米国企業の日本法人が毎年1000億円の売上なり利益をあげているとしよう。1000億円の稼ぎは1ドルが80円から120円になると、12.5億ドルから8.3億ドルまで4億ドル分以上目減りしてしまう。ドル高は、輸出だけでなく、海外売上の面でも米国企業の業績を悪化させる要因になる。もちろん、日本企業にとってはドル高・円安が進めば輸出に有利、プラス海外売上・利益の増加の恩恵もある。

日本にとっては円安ドル高のほうがいいのか

 では、巷で言われているように、日本にとっては円安ドル高のほうがいいのかと言えば、そんなに単純な話ではない。繰り返しになるが円高にも円安にもメリットとデメリットがあり、同じ日本の中にもメリットを受ける人とデメリットを受ける人が混在するからだ。とはいえ、「日本は貿易立国なんだから、日本全体で見れば、輸出に有利な円安のほうが円高より良いに決まっている」とお考えの方も多いと思う。それは大きな誤解の上に成り立つ話だ。そもそも、今の日本は貿易でもっている国ではない。よく耳にする「米国のGDPの7割を個人消費占める」というセリフと昔のイメージから、「米国は個人消費の国、日本は貿易の国」という誤ったイメージが蔓延してしまっているのかもしれない。


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