公立中学が挑む教育改革

2018年12月28日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

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千代田区立麹町中学校の生徒はどこまでも自分たちの頭で考え、実行する。そうして形作られる学校行事として、5月に開催された体育祭と双璧を成すのが10月の「麹中祭」。一般に「文化祭」や「学園祭」と呼ばれる行事に当たるイベントだ。生徒たちで構成された実行委員会を中心として、対立を恐れず、ときには激しい言葉も飛び交う議論を経て準備が進められた。当日の様子を伝えるとともに、後日、実行委員の2人にインタビューした内容を紹介したい。

2018年10月27日、千代田区立麹町中学校の校門にて

唯一のミッションは「観客を楽しませること」

 会場の体育館には、開演時間前から数多くの保護者が詰めかけていた。場内は、ざっくりと分けて前方ステージ側に生徒席、その後ろに保護者席がレイアウトされていた。よくよく見てみると、埋め尽くされた生徒席のさらに前方は空席となっている。その理由はアナウンスによってすぐに分かった。

会場図 写真を拡大

「場内前方には、交代でお座りいただける保護者優先席を設けています。該当する出し物の際にはぜひご利用ください……」

 今回の麹中祭は、大きく分けて二部構成となっている。一つは各クラスが自由に選曲した合唱と、各学年による合唱。そしてもう一つは文科系部活動やサークル、校内オーディションで選ばれたチームによるステージ。クラスや学年、発表団体が入れ替わるたびに、その保護者も最前列で観られるよう配慮して設けたのが「保護者優先席」というわけだ。

 観覧者への配慮は、会場入り口に貼り出された「プログラム表」からも見てとれた。演目が進んでいくと、実行委員の生徒によって現在のプログラムに矢印のマークが表示されるようになっていたのだ。これは、仕事などの都合で冒頭から会場入りできない保護者のために設けた工夫だという。確かに、途中から来場した人にとっては「プログラムがどのあたりまで進んでいるのか」を知るのは難しいもの。当日はこの心配りに助けられた人も多いのではないだろうか。

進行中のプログラムには、大きな赤い矢印が貼り付けられていた

 このあたりの運営スタンスは、清々しいまでに生徒ファーストが貫かれていた体育祭とは大きく異なるように感じられた。「自分たち(生徒)が楽しむこと」を最優先にしていた体育祭では、そもそも保護者席の用意さえなかったのだ。

「事前に聞いていた通り、体育祭とは真逆のスタンスなんだ」と筆者は思った。同じ学校のイベントなのに、目的が変わればこんなにも違った表情を見せるものなのか、と。

 筆者はこの日に先立ち、準備を進める生徒の様子も取材させてもらっていた。すべては生徒たちが自分で考え、実行していく。その前提として工藤校長から示されたミッションは「観客のみなさんを楽しませる」ことだった。自分たちが楽しむ体育祭とはまさに真逆で、麹中祭は観客を楽しませることが最優先なのだ。

 生徒たちはこの最上位目標を共有し、当日を迎えた。

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