テロ懸念で制限される米国民主主義


世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察するコラム。

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パリの同時多発テロをフランス当局が未然に阻止できなかったことを受け、米国では情報機関による国内監視権限の是非をめぐる議論が再燃しています。11月17日付のニューヨークタイムズ紙と11月20日付のウォールストリートジャーナル紙がそれぞれ賛否の異なる社説を掲載しているので、紹介します。

パリ同時多発テロを受け、連帯と犠牲者への追悼を表すメッセージ(iStock)

ニューヨークタイムズ紙

 パリ同時多発テロから3日後、ブレナンCIA長官は「テロリストを見つけるための政府の役割が制約を受けている」ことに懸念を表明した。

 2011年国家安全保障局のスノーデンが、同局が米国市民数百万人の電話記録を入手していることを暴露し、国民はこれに今も憤激している。今年6月、オバマ大統領は「米国自由法」に署名した。これにより、政府は一般市民の国内通話記録の大規模収集を原則中止した。これを情報コミュニティは、テロ対策への重大な制約と見なしている。

 ブレナンが今以上にどのような権限を欲しているのかは明らかではない。パリ襲撃犯の大半は、以前からフランスとベルギー当局の情報網に引っ掛かっていた。フランスのテロ対策専門家は「我々の情報は優れている。だがそれに基づく行動に限界がある」と述べている。問題はデータの不足ではなく、データに基づいてどう行動するかにミスがあったということである。

 FBIのコミー長官も、アップルやグーグルのような企業は暗号化された顧客の通信を法執行機関が解読できるような措置を施すべきだ、と言っている。だが、そうしたバックドアを設けることは、犯罪者やスパイにとってもハッキングしやすくすることになる。

 情報機関や法執行機関が、攻撃を未然に防ぐ能力を持つべきであることは当然である。しかしそれは、市民の自由を阻害し、憲法違反のやり方を許容することにはならない。

ウォールストリートジャーナル紙

 パリでのテロがテロリスト監視問題の議論を再燃させているが、良いことである。ブレナンCIA長官は暴露と制約でテロリストの発見が難しくなっていると述べた。

 スノーデンの暴露でテロリストは用心し、その探知がより困難になっている。フランス当局がなぜテロを防げなかったのか。部分的には、情報活動の失敗があった。フランス当局の警戒対象リストには、1人以上の犯人が載っていた。しかし当局は彼らの動きを追跡するのに失敗したか、その意図を見誤った。

 グローバル・ジハードと戦うためにはグローバルな情報収集が必要である。
NSAの通話メタデータ収集が禁止され、米国の情報能力は低下している。スノーデン事件を受け、オバマは6月、電話傍受の廃止を提案し、議会もこれを認めた。

 外国情報監視法(FISA)702節、すなわち、外国人同士の通信の盗聴を許容することは残したが、通信の双方が米国人ではないことを証明するのは情報当局にとり大きな負担となっている。

 FBIとCIAは、携帯電話通信の全面的暗号化にも懸念を抱いている。これはテロリストが通話のモニタリングを妨害するのを容易にしてしまう。アップルとグーグルは、携帯電話通信にアクセスできないよう最新のOSを暗号化している。

 暗号化が政府当局の収集にとって障害になるのなら、多少の妥協は必要である。大量の犠牲者を出す攻撃があり、それが暗号化された電話に守られていたとすれば、これら企業のCEOは政治的逆風に晒されるから、慎重に考えるべきである。

 テロリストは自由な社会に非対称的な攻撃を加えられる有利さを持つ。尋問や情報は必要である。オバマは尋問も収集も弱体化したが、それは一方的軍縮である。

 出 典:New York Times ‘Mass Surveillance Isn’t the Answer to Fighting Terrorism’
(November 17, 2015)
Wall Street Journal ‘The Decline of Antiterror Surveillance’(November 20, 2015)
http://www.nytimes.com/2015/11/18/opinion/mass-surveillance-isnt-the-answer-to-fighting-terrorism.html
http://www.wsj.com/articles/the-decline-of-antiterror-surveillance-1447977687

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