パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF)は23日までに、日本人のフリージャーナリスト安田純平さん(41)がシリアで武装勢力に拘束され、身代金を要求されていることをホームページで発表、日本政府に救出のため迅速に対応するよう求めた。ジャーナリスト後藤健二さんらの人質殺害事件の悪夢の再来が懸念されている。
シリア入国後すぐに拘束か
発表によると、安田さんは7月初め、トルコからシリアに入国、その2、3時間後に「武装組織」によって誘拐された。誘拐されたのは国際テロ組織アルカイダのシリア分派「ヌスラ戦線」が支配している地域だったというが、発表では誘拐した組織については具体的に明らかにしていない。
「国境なき記者団」が21日入手した情報によると、「武装組織」は安田さんの解放について期限を切って身代金を要求、身代金が支払われない場合は、処刑するか、ないしは他のテロ組織に売り飛ばすと脅迫している、という。身代金の要求先や解放交渉が行われているのかどうかなどは不明。
RSFは日本政府に対して速やかに救出活動をするよう求め、各国政府はジュネーブ諸条約や国連安保理決議などの国際法の下、ジャーナリストの安全に責任があると指摘、人質になっているジャーナリストを解放、保護するために積極的な措置を講じなければならない、としている。
RSFのアジア・太平洋デスクの責任者ベンジャミン・イスマイル氏は「われわれはジュンペイ・ヤスダの身を非常に懸念しており、彼を解放するために必要な対応をするよう日本政府に所望する」と述べ、関係当事者にジャーナリストを人質に取ることをやめるよう求めている。
救出の努力を求められている日本政府は安田さんの拘束については公式には確認していないが、外務省を中心にシリア周辺のトルコやヨルダンなどの現地大使館を通じて安否確認を急いでいると見られる。今回の発表については、安田さんの友人の1人は「真っ赤なデマ」と否定している。
これまでの情報などによると、安田さんはトルコ南部のハタイ県からシリア北西部に越境し、予定していた7月中旬を過ぎても帰国しなかった。シリア北西部では、ヌスラ戦線のほか、アサド政権に敵対する反体制派や犯罪組織などが入り乱れて活動している。またこの一帯はシリアに軍事介入したロシア軍機の爆撃の標的にもなっており、混乱が渦巻いている。
ISへの“売却”が懸念
安田さんを拘束している「武装組織」の実態は不明だが、7月の米ニューヨーク・タイムズ紙によると、安田さんやスペイン人ジャーナリストら4人は「リワ・ムジャヒディーン・ワルアンサル」(移民と支援者旅団)という外国人戦闘員が多く加わっている組織によって誘拐された、という。
しかし同紙は一方で、シリア人活動家の話として、安田さんはシリア北西部イドリブ県の「ヌスラ戦線」に拘束され、後にヤコウビイエというキリスト教徒の村で目撃されたとしており、情報は錯綜していた。
この「武装組織」が後藤健二さんや湯川遥菜さんの2人を殺害した過激派組織「イスラム国」(IS)と関係があるのかどうかだが、誘拐された場所がIS支配地域ではない上、これまで5カ月も沈黙守り、プロパガンダに利用していない点などを考えると、同紙が報じているようにISとはまったく別組織との見方が有力だ。懸念されるのは、身代金をめぐって解放交渉に折り合いが付かず、ISに売り渡されることだ。国連などによると、ISは2014年、外国人人質の身代金で約50億円稼いだとされている。人質はISが直接誘拐したというより、他の組織が誘拐した外国人を“購入”したケースが多く、シリアでは誘拐ビジネスが盛んに行われている。
安田さんは2004年4月、米軍の侵攻後のイラクに入り、首都バグダッド郊外で武装勢力に拘束され、日本政府などによる交渉の末、3日後に解放された。今回のシリア入国の目的は後藤健二さんらの人質事件の取材だったと見られている。
RSFによると、世界各地では現在56人のジャーナリストが人質になっており、うちシリアでは26人が捕らわれており、取材活動が最も危険な国の1つである。
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