2016年ロシアの展望やいかに


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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2015年も残り僅かとなり、来年の展望を見据える時期となった。ロシアにとっての2015年はかなり厳しい1年であったが、ロシアを苦しめた諸問題の多くは来年も継続すると考えられる。

 そこで本稿では、2015年のロシアの諸問題をざっと振り返り、その上で2016年の展望を検討していきたい。

モスクワの眺望(iStock)

ロシアにとって厳しかった2015年

 2015年はロシアにとって極めて厳しい年であったという評価に異論はないだろう。 

 第一に経済の停滞である。2014年末から深刻になっていたウクライナ危機による対露制裁およびロシアの報復、そして石油価格の暴落とそれに比例するかのようなルーブルの下落などで、ロシアの経済パフォーマンスは極めて悪化した。それでも、政府のプロパガンダが功を奏し、国民は、経済悪化の原因は全て欧米(特に米国)にあるとして、欧米に対する敵意を強めていく一方、愛国心を高めており、プーチンに対する支持率も85%前後を維持している。

 第二に、ウクライナ問題およびその余波である。ウクライナ問題は2015年もロシアを悩ませ続けた。2月12日にいわゆる「ミンスク2」合意が成立し、その後は、ロシアの軍事的関与は徐々に収まっていったが、ウクライナ東部の情勢が安定したわけでは決してない。

 そもそも「ミンスク2」の合意は、年内の和平プロセス完了を想定していたが、パリで10月2日に行われたウクライナ東部情勢に関するフランス、ドイツ、ロシア、ウクライナの4カ国首脳会談は、親露派武装勢力の支配地域で予定されていた独自選挙の先送りなどに合意し、紛争沈静化へ向けて一定の成果を上げた一方、「ミンスク2」を期限があいまいなまま引き延ばした。

 ウクライナ東部がロシアへの編入を求める一方、ロシアはウクライナ東部を不安定なままウクライナに残すことを最善としており、ウクライナ東部情勢は当面、不安定な現状を維持する形で推移しそうだ。ロシアにとってウクライナ東部情勢の不安定化の継続は望ましいことだが、それが故に欧米諸国による対露制裁は現在も継続している。EUは今年9月14日に「149人の個人と37の団体を対象とする資産凍結と渡航禁止」に関する対露制裁を6ヶ月延長した。なお、別の対露制裁も2016年1月まで延長されている。それでも、EUは制裁の強化は行っておらず、停戦順守の状況次第では制裁緩和の道もあるという立場をとっている。

 一方、強硬姿勢を貫いているのが米国だ。米国は制裁を継続させているだけでなく、2015年12月22日には、追加制裁も発動させたのである。この対象は22人の個人と12の企業であり、それら個人のうち14人は、これまでの制裁措置の対象となっていた人物や企業を幇助した者であり、うち6人はウクライナの親ロシア派で、2人はウクライナのヤヌコーヴィチ前大統領の高官、12の企業にはクリミアに進出したロシアの3銀行なども含まれており、米国財務省は今後、さらに制裁の対象が拡大される可能性にも言及している。このような経済制裁の継続は、石油価格下落とともにロシア経済に大きな打撃を与えている。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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