福島のタブーに挑む・その3
賠償の区切りと広域復興

澤昭裕・2016年への提言(後篇)


澤 昭裕 (さわ・あきひろ)  国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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  東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年が経とうとしている。
  パニックが収まっていない中で次々と決定されたこれまでの政策措置は、当面5年程度を念頭に置いていたという。5年経てば、事故の収束や放射能汚染、避難状況等について、事態を冷静に分析できる状況になっているだろうから、その時点で再検討を加えると考えていたわけだ。
  2016年は、17年3月の避難指示解除以降の政策のあり方について、抜本的な検討を行う極めて重要なタイミングである。
  事故直後の政治的判断がつくり出したタブーや囚われた固定観念を、意図的に表に晒して議論することが必要だ。

前篇「除染のやり過ぎを改める」についてはこちら
中篇「被ばくデマ・風評被害の根絶」については
こちら

賠償問題の区切り

 現行の原子力損害賠償制度の大きな欠陥は、事故を起こした会社とその被害を受けた個々人との間の損害賠償しかカバーしていないことにある。

 そもそも大規模な原子力事故がどのような問題を引き起こすかについて、天災との複合災害や(チェルノブイリの例があったにもかかわらず、その教訓が生かされず)地域のコミュニティ崩壊の対応にまで事前に頭が回っていなかったことが、福島第一原発事故の後の政府の対応を迷走させた原因の一つである。コミュニティの崩壊や天災によるインフラ喪失、さらに放射性物質による汚染については、東京電力と被害者個々人との間の損害賠償では本質的に解決できる問題ではない。

 現在の賠償水準については、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会で作成された「中間指針第二次追補」で大枠が決定されている。ここでは、原発事故の被害の範囲や大きさが、政府の区域設定に依存する形で賠償額が決定されている。もちろん、その区域がどのような意味を持つかによって損害賠償の範囲や大きさが影響されることは否定できない。

仮設住宅に隣接する新築住宅(福島県いわき市) JIJI

 しかし、この構造は、逆に被害者の視点から見れば、政府がどういう基準でどのように区域設定をするか、あるいはそれを解除するかによって、自ら受け取れる賠償額や期間が大きく変化することを意味する。区域設定によって、被害者間での賠償条件の差、いわゆる賠償格差問題が噴出することになる。政治的には賠償額を増やしたり、条件を有利にしたりする方向で問題を解決しようという流れが止まらなくなる結果、賠償総額がコントロールできなくなる事態を招いてしまう。

 事実、2013年12月の「中間指針第四次追補」では、帰還困難区域における精神的損害の賠償を積み増して一括払いすることを決めた一方で、避難継続の場合は月額10万円を継続、避難指示の解除が行われた地域では解除後1年間で打ち切ることを目安としており、取扱いには大きな差が生じている。

 こうした構造が続く限り、除染や自然減衰が進んで区域の再設定が可能になったり、避難指示を解除できたりする状態になったとしても、今の帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備地域の区別をできるだけ動かしてほしくないという政治的な声があがることも不思議ではない。

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著者

澤 昭裕(さわ・あきひろ)

国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

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