中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年10月24日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

危機防止が目的なら、
東アジア共同体が先ではない

 価値があるとすれば、ふたたび日本や東アジア諸国が互いの政治的軍事的緊張の高まりで危機に陥ることを防ぐということであろう。しかし、この基準では、なぜ日本が直接紛争相手になる可能性が薄い東南アジア諸国と共同体を形成すべきなのか分かりにくいし、米国、ロシアといった日本を取り巻く軍事大国と融和しなくて良いのかということにもなる。

 東アジア域内での危機防止となれば、より分かりやすくなるが、やはりなぜ紛争防止に政治的枠組みではなくて経済共同体といった経済的枠組みが優先されなければならないのか、いまひとつ釈然としない。ちなみに、ヨーロッパの場合、経済共同体の嚆矢となる1952年設立の欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)に先立って、1949年に北大西洋条約機構(NATO)が結成されている。

 結局、東アジア共同体は遠い将来の枠組みとしては否定しないものの、域内にとっては当面意義が薄いと思わざるをえない。その中で、敢えて形成する意義を挙げるとすれば、日本の利益である。近隣諸国と仲良くして経済関係も一層深めようということが第一点であろう。これに加えて、日本にとって、みずからの経済活性化のために成長地域であるアジアを取り込むことは有益であり、経済関係が緊密なアジア諸国との関係を特別に強固にすれば、さらに日本経済の利益にもなるということがあろう。

経済活力を取り込む目的なら
まず日米FTAだ

 もっとも、最後の点、すなわち日本経済にとっても他国との経済緊密化で活性化を図るのであれば、そのやり方はひとつではない。日中韓3カ国間のFTA締結を推進することでも意義は大きい。しかも、これであれば、将来の東アジア共同体につながる余地も開けている。ヨーロッパの場合も、共同体形成は一様に進んだわけではなく、1957年に独仏伊など6カ国が欧州経済共同体を結成し、その後多くの国が加盟した経緯があるし、現在のEUでも通貨統合にまで至っているのは28カ国中16カ国に止まっている。

 東アジア共同体構想を排除せずに日本と経済関係が緊密な東アジア諸国の間で先行して共同体を形成するのであれば、経済水準や政治体制が近似しているオーストラリア、ニュージーランドとの間で共同体を作ることも大いに検討に値するし、一気に東アジア共同体を検討するよりもはるかに実現性は高い。

 もっとも、日本に利益となる一層の経済緊密化を図ると言うのであれば、敢えて東アジア地域にこだわらなければならない理由は乏しい。とりわけ、日本と経済関係が緊密ということであれば日米経済関係は筆頭格であり、FTAなどを通じた米国との経済関係の一層の緊密化は東アジア共同体に劣らず重要である。

 まして、日本はアジアの一員ではあるが、太平洋国家でもあり、環太平洋諸国のひとつでもある。米国と経済共同体を形成することができれば、経済構造に補完性が強いことから、強力な経済圏を形成することができるし、なにより経済活力が乏しくなっている日本にグローバルスタンダードとなっている経済的枠組みが浸透する意義は大きい。

 もちろん、日米で経済共同体を進めることまで言及すると、異論も多い。日本、米国とも経済利害が対立して成り立たないとの見方はさておいても、覇権国で経済力も突出した米国を加えることは、日本とアジア諸国が加わる東アジア共同体の形成可能性を潰えさせ、二者択一しかないとの見方もあろう。

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