IS空爆の落とし穴

エアパワーだけで紛争は解決できるのか


世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察するコラム。

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米国シンクタンク、外交問題評議会(CFR)の上席研究員で、共和党の大統領候補として出馬しているマルコ・ルビオ上院議員の外交顧問も務めるブートが、軍事史から見て、空爆が奏功したのは適切な地上部隊との連携がとれた場合だけであるとして、空爆だけに依存する対ISIS政策を批判しています。

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軍事史が示す空爆の限界

 航空時代の幕開け以来、軍事戦略家は空爆だけで戦争に勝てるとの幻想を持ちがちである。今日、イスラム国(IS)を空爆でやっつけられるとの考えは、オバマやヒラリー、トランプ、クルーズのISIS政策に共通するもので、今や英仏までもがこれを信じている。

 だが軍事史は、そうした信条を正当化しない。

 1920~30年代の米英の指導者は、戦略爆撃の向上に膨大な投資をした。だが、第二次世界大戦において、戦略爆撃は期待するほどの決定打にはならなかった。ドイツ軍は1940年に英国を屈服させることができなかったし、逆に米英軍がドイツを爆撃したときも、爆撃の渦中にありながらドイツは工業生産を増やしていた。

 エアパワーの限界はベトナム戦争でも見られた。戦略空軍司令官のカーティス・ルメイは、空爆で「北ベトナムを石器時代に戻してやる」と言っていたが、北爆に第二次大戦時より多くの爆弾を費やしても、結局戦争に勝ったのは北ベトナムだった。

 最近でも、トランプはルメイさながらに「ISの連中を爆撃してやる」と言い、クルーズは「ISを絨毯爆撃して記憶の彼方に追いやる」と意気込んでいる。ISへの核使用も示唆しているが、現実的ではない。ISには、破壊すべき工業インフラも戦車部隊もない。彼らジハーディストは民衆の中にいる。米国のエアパワーがISに対して効果を発揮したのは、クルドを主軸とする強力な地上部隊がいたシンジャールとコバニの戦いだけである。湾岸戦争、コソボ、アフガン、イラクでの戦争においても、空爆が決定的な力を持ったのは、米軍やコソボ解放軍、アフガンの北部同盟など、有力な地上部隊と連携できたときだけである。逆に、クリントン大統領が1998年にイラク、アフガン、スーダンで行ったような空爆だけの作戦はほとんど効果がなかった。

 予想通り、地上での追撃をせずに行ったISへの空爆は、さしたる成果をあげていない。国防省はIS戦闘員2万3000人を殺害したと言っているが、彼らは今でも2~3万はいるとされ、数的には空爆前とほとんど変わっていない。これは1960年代のベトコンと同様、ISは殺されると同時に戦闘員を補充できることを意味している。

 空爆を強化するのなら、爆撃を正確に誘導できる戦術航空管制官を戦場に送る必要があるが、現在オバマはこれも拒否している。空爆を強化するにしても、ISを倒すには有効な地上部隊が必要だろう。シリアやイラクで米軍に代わる有効な部隊を投入できないのなら、米国は少なくともその一部を自ら提供する必要がある。しかしオバマは「長くコストのかかる地上戦」に引っ張りこまれるとして、拒否している。

 「長くコストのかかる地上戦」など誰も望んではいないが、エアパワーだけではこの戦争には勝てない。それを否定する政府の戦略家や大統領候補は、本気でこの戦争に勝つことを考えていないのである、と述べています。

出 典:Max Boot ‘Why Air Power Alone Won’t Beat ISIS‘ (Wall Street Journal, December 8, 2015)
URL:http://www.wsj.com/articles/why-air-power-alone-wont-beat-isis-1449618362

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