2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年1月26日

空爆だけで紛争に勝つのは本当に無理なのか

 ISとの戦いにおいて、地上軍が果たす役割は大きいです。その意味で、ISを敗北させるとの観点からは、この論説の主張は適切です。ただ実現可能性には疑問があります。

 オバマ大統領は、中東地域のスンニ派諸国が地上軍を派遣することを期待していますが、まだ実現していません。イグネイシャスは、オバマの対IS戦略には、そこに大きな穴が開いていると評しています。オバマは、地域諸国が主として地上軍を出すべし、との考えでしょう。しかし、役割分担についての話し合いができておらず、負担の押し付け合い、結果としてISへの対応の不十分さが出てきていると思われます。

 ISには、サダム・フセイン時代の軍人が多く参加し、軍の装備もイラク軍に提供された米軍兵器を奪取した結果、良いと言われていますが、基本的には民兵組織です。その観点から、軍事力は、そうあるわけではないでしょう。戦闘意欲のないイラク軍は、このISの軍勢にモスルで敗れるという失態を演じました。ヨルダン軍も危険回避を重視しています。地域諸国の協力があれば、米国も地上軍を出す用意ありと言えば、事態は動くでしょうが、オバマにそうする気はありません。

 結局は、ISの脅威をどう見るかに帰着します。ISを敗北させるなどレトリックは良いですが、実際の行動はレトリックに見合っていません。米国での大規模テロの発生など、何らかのショックがあれば別でしょうが、そうではない限り、今の状況が続く可能性が高いです。

 なお、この論説の主たる論拠は、歴史的に空爆だけで戦争に勝つのは無理であることが証明されているということですが、果たしてそうでしょうか。戦略爆撃の効果については、第二次世界大戦後、米国はかなり大がかりな調査をしました。日本が降伏したのは原爆を含む空爆によるものでした。沖縄では地上戦はありましたが、本土決戦の地上戦があったわけではありません。セルビアをコソボから追い出したのは空爆ではなかったか、よく検討する価値はあります。相互確証破壊は空爆の効果で担保されています。

 ブートの論はISについては正しいと思われますが、空爆の効果は関連諸事情を考慮して判断されるべきでしょう。公理のように、エアパワーだけで戦争に勝てないと断定するのが適当か否か、疑問です。

  
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