2024年11月15日(金)

WEDGE REPORT

2016年1月27日

 マンハッタン計画、といえば日本への原爆投下につながった第二次世界大戦中の米英カナダが協力した核開発プログラム。しかしその負の遺産が今、米住民を苦しめている。

広島はマンハッタン計画の犠牲となった(iStock)

杜撰極まりない核廃棄物処理

 マンハッタン計画の中心となったハンフォード研究所は現在国の歴史公園に指定されている。しかし現在クローズアップされているのはあまり知られていないウラン濃縮施設があったミズーリ州セントルイス周辺だ。人口300万人の大都市周辺で、放射性物質が次々検出され住民の不安をあおっている。

 マンハッタン計画で出た核廃棄物は、1973年にセントルイス市のゴミ処理業者リパブリックサービス社が引き受け、同市郊外のウエストレイク周辺の埋め立てに使われた。しかし当時は核廃棄物の危険性がそれほど知られておらず、地中15センチから1メートルに覆いもせず埋める、という杜撰なものだった。

 2008年に米環境保護局(EPA)が核廃棄物を粘土、砂利、土などで囲い込むプランを発表したが、「 放射能への対応としては不十分」という指摘を受け撤回した。その後「対応が遅すぎる」という批判を受けながらもEPAは実際的な行動を起こしていない。

 問題はこのウエストレイクの埋め立て地で2010年頃から地下火災が起こっている、という点だ。ミズーリ州検察局はリパブリックに対し訴訟を起こし、裁判は今年3月からが予定されている。地中から煙が立ち上り、付近住民が健康被害などを訴えているが火災原因は不明だ。

 この地下火災が、核廃棄物埋め立て地までわずか数百メートルまで迫りつつある。このためEPAはリパブリックに対し、廃棄物周辺にバリアを施し火災が埋め立てに及ばないよう防護するよう命令を下した。リパブリック側は「火災が核処理物に到達する可能性はきわめて低い」としている。

 しかし同州の環境保護団体トップであるエド・スミス氏は「地下や地上の火災が放射性物質に引火する恐れのない唯一の方法は廃棄物をそっくり移動させること」と、リパブリック、EPA双方に反発している。リパブリックの火災が引火する可能性は低い、という主張は全く根拠がなく、EPAのバリアは問題の根本的解決にはならない。


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