海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年1月27日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「トランプ、クリントン、サンダース支持者の声から読み解く2016年米大統領選挙」です。2月1日に候補者指名争いの初戦となる中西部アイオワ州で党員集会が、同月9日に第2戦となる東部ニューハンプシャー州で投票がそれぞれ行われます。共和党候補者指名争いでは、再選出馬した現職大統領を除いて両州を制した候補者はいません。不動産王ドナルド・トランプ候補が両州で勝利を収め、快挙を成し遂げることができるのかに注目です。

 昨年の夏からアイオワ州及び、ニューハンプシャー州で764軒の戸別訪問並びに1962軒の電話による支持要請を実施してきました(1月10日現在)。本稿では、トランプ候補、ヒラリー・クリントン前国務長官及び、バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)に焦点を当てながら、戸別訪問で得た有権者の声の一部を紹介し、それらを踏まえて16年米大統領選挙を読み解いていきましょう。

トランプ支持者の声

トランプ候補(iStock)

 トランプ支持者は、主として白人男性で高卒以下の低所得者です。ニューハンプシャー州コンコードにあるワシントン・ストリートと、ペリー・アベニューの角にある家の前を通りかかったとき、30代前半に見える白人男性の労働者から突然声をかけられました。

 「ヒラリー、ヒラリー、ヒラリー」

 この労働者は右手でこぶしを作って上下に振りながら、こう叫んでいたのです。彼は戸別訪問をしている筆者がかぶっているクリントン陣営のロゴマークが入った野球帽を見て、同陣営の運動員だと判断したのでしょう。

 「ヒラリーの支持者ですか」

 筆者が立ち止まって質問をすると、この労働者は黒色のズボンのポケットに両手を入れて、ニヤニヤ笑いながらこう答えたのです。

 「トランプの支持者だ」

 彼の横にいた60代に見える別の労働者も語りかけてきました。

 「トランプはあなたに雇用を作ってくれるぞ」

 彼は、筆者が無職なのでボランティア活動をしていると勘違いしていたようです。トランプ候補はどの共和党候補よりも、経済問題において有権者から信頼を得ています。

 「トランプは強いリーダーだ」

 彼は、続けてこう主張したのです。国内のテロの脅威にさらされている有権者は、今、強いリーダーを求めているのです。年上の労働者と筆者の話に聞き入っていた若い労働者が、次のように問いかけてきたのです。

 「女が大統領になったら、あなたは嫌だろう」

 「女」とはもちろんクリントン候補をさしています。トランプ候補が女性蔑視の発言をしても支持率が低下しない主たる理由は、上のような支持者の存在があるからです。米国史上初の女性大統領誕生の可能性について触れると、この労働者はポケットから両手を取り出して左右に振る動作をしながら、強い口調で次のように語ったのです。

トランプ支持の看板(筆者撮影@ニューハンプシャー州コンコード)

 「すべてのイスラム教徒を自動的にアメリカに入国させるわけにはいかない。いい奴も悪い奴も入れてしまうからな」

 彼は、トランプ候補の「一時的イスラム教徒入国全面禁止」を強く支持していました。同候補のメッセージが、核となる支持者にかなり浸透しているという印象を受けました。

 アイオワ州デモインでクリントン陣営が標的としている無党派層の声も紹介しましょう。

 ジェームズ・カタルド(43)

 帰宅したばかりのカタルドさんは、食料品の入ったレジ袋を両手に持ちながら駐車場で以下のように語ってくれました。

 「トランプは典型的な政治家ではないので、彼を支持しています。彼は正しいことを主張しています。たとえば、イスラム教徒の入国全面禁止は正しいです。偏見ではありません。テロに対して何かをしなければならないのです。国境の壁も不法移民に対する対策です。ただ、どうやって実行するかは分かりません」

 クリントン陣営が獲得を目指している無党派層の一部にも、トランプ候補のメッセージは確実に浸透していました。同じく、同陣営が獲得を目指している無党派層の白人男性の声も紹介してみます。

 ロナルド・レイノルド(67)

 ベトナム戦争を経験した退役軍人のレイノルドさんは、玄関のドアを開けると片手で押さえながら率直にこう語ったのです。

 「私はトランプを支持しています。彼は政治家ではありません。退役軍人は、失業率が高くてホームレスが多いです。それに対して、ソマリアなどアフリカからの移民は政府の援助を受けているのです。しかし、彼らはアメリカ社会に同化していません。同化しないのなら自国に戻るべきです」

 レイノルドさんは、移民が米国社会に溶け込まないことに対して強い不満を抱いていました。演説のたびにトランプ候補は、退役軍人は不法移民よりも待遇が悪いと述べ、自分こそが彼らの味方であると強調して、レイノルドさんのような元軍人の心を確実につかんでいます。

トランプ候補のパンフレット

 戸別訪問の際に、トランプ候補が非職業政治家である点を支持の理由に挙げる有権者は少なくありません。彼らは、職業政治家に対してかなり強い不信感を持っています。共和党候補者指名争いで当初本命とされていたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が低迷をしている1つの要因は、特定の候補者に無制限に資金を提供できる政治団体スーパーPAC(パック)と呼ばれる特別政治活動委員会に依存しているからです。スーパーPACは、職業政治家の象徴的存在なのです。

 不法移民に対して怒りの気持ちがあるのは、レイノルドさんのみではありません。戸別訪問の最中に、筆者に声をかけて質問をする白人男性がいました。

 「何をやっているんだ」

 「クリントン陣営で戸別訪問をしています」

 正直にそう答えました。彼はトランプ候補の支持者であることを明かすと、即座に不法移民を批判し始めたのです。

 「不法移民は税金を払っていないのに教育を受けている」

 その後に述べたこの白人男性の言葉に、思わず息を呑んでしまいました。

 「あなたも移民だな。永住権を持っているのか」

 このトランプ支持者は、筆者が不法移民ではないのかと疑っていたのです。トランプ支持者には不法移民に対して嫌悪感が存在しており、トランプ候補はそれを利用して支持につなげています。

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