2024年4月19日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2009年11月18日

 中国外務省高官はギョーザ・ガス田問題についてこういう道筋を示す。「日中間にはまだ疑心暗鬼の部分があり、これらの問題には複雑な経緯もある。性急にやるとしこりが残る」

 また、東アジア共同体構想でも日中の主導権争いが激化するとの懸念が出ている。胡主席は、9月下旬にニューヨークで鳩山首相と会談した際、鳩山氏の東アジア共同体提唱に無反応だったため、日本国内では「中国は日本に先手を打たれ、主導権を握られるのを嫌がっているのでは」という憶測まで日本で流れた。「そうではない」と断言する日中関係筋は、その証拠として昨年5月に来日した胡主席が早稲田大学での講演でこう語っていると指摘する。

 「東アジア共同体建設を推進し、アジア振興促進の中で中日共同発展を実現する」

 同筋は今回の中国の慎重に見える姿勢について「鳩山首相の共同体構想の全体像が見えない。中国としては全容が分かってから本格的に検討することになるだろう」と語る。一方、訪中したオバマ大統領との間で胡主席が「米国が『アジア太平洋の国家』として地域の平和・安定・繁栄のため努力することを歓迎する」(共同声明)と表明したのは、東アジア共同体構想をめぐり、自国に深く関わる地域のホットイシューである台湾情勢や朝鮮半島問題を有利に進めるため、地域への米国関与が不可欠とみているからだ。

「対日不信」は米中共通に

 「今、最も厄介なのは、中国ではなく日本だ」との米国務省高官の発言を伝えたワシントン・ポスト紙(10月22日)は日本国民に衝撃を与えたが、「米外し」とも受け止められる東アジア共同体構想や米軍普天間飛行場の移設問題を受け、「日米同盟」がきしんでいる。

 実は日米間に潜むこの現実が、米中2大大国「G2」論を助長するという日本にとって厳しい結果を招いている。今、「対日不信」が渦巻いている点では米中両国は共通だ。中国にとっては中国重視と言いながら「小問題」にこだわる点、米国には基地問題や東アジア共同体構想への不満が強いことは前述した通りである。

 アジア・中国重視を言い続ける鳩山政権と、米中両国との距離がそれぞれ開き続ける裏側で、オバマ、胡両氏は結んだ手を離さないばかりか、一本ずつ指の力を着実に強めているのが現実なのだ。

※次回の更新は、11月26日(水)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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