風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2009年12月3日

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野村 滋 (のむら・しげる)

株式会社コンテンツ・ファクトリー代表

情報誌会社勤務時代に取材で、創立間もない風の谷幼稚園と出会う。その後12年間、風の谷幼稚園の変遷を追い続けている。風の谷幼稚園の教育実践記『4歳の胸のうち』『5歳の誇り』を同社から出版。

鬼につかまって大泣きするのは麻子ちゃんです。ものすごい勢いで泣くので、つかまえたほうが驚いたり困ったりで近づけません。
そんな中、一美ちゃんが何食わぬ顔で「はい、鬼の帽子ちゃんとかぶってね」と手渡すとしぶしぶ受け取ってかぶります。
つかまった悔しさをまず泣いて発散させて、それからじゃないと鬼にはなれない麻子ちゃんなのです。
                                                                 花組 学級通信「すくすく」より

 これは天野園長がかつて勤務していた幼稚園で書いた学級通信の一節だ。子どもが大きな声で泣いている様子が目に浮かぶようだが、先生の対応は落ち着いたもの。これも大切な成長の過程との認識があるからだ。そして、この「鬼ごっこ」は風の谷幼稚園にも脈々と受け継がれている。たかが「鬼ごっこ」と思うなかれ。これに秘められた教育意図と、その結果としての子どもたちの成長ぶりを聞けば、風の谷幼稚園の「鬼ごっこ」の奥深さがご理解いただけるだろう。さて、天野園長は「鬼ごっこ」を通じてどんな力を育もうとしているのだろうか?

追いかけるのは楽しいけど
追いかけられるのは怖い

 結論から言うと「悔しさと折り合いをつけられるようになること」「状況に合わせて行動できること」「社会性を育てること」などが主な目標だ。では、なぜ「鬼ごっこ」を通じてこのような力が育まれるのか、順を追って説明していこう。

 まず「鬼ごっこ」と言ってもいろいろな種類がある。生まれて初めて経験する「鬼ごっこ」は、多くの場合、家庭で親に追いかけられる遊びだろう。親が「待て、待て~」と言いながら子どもを追いかけると「きゃっきゃ」と子どもはうれしそうに逃げ回る。そして、つかまっても大喜びだ。

 ところが、家庭を出て幼稚園で「鬼ごっこ」をするとなると、少し事情が変わってくる。

 「幼い子どもにとって、追いかけられるというのは怖いことなのです。さらに、自分を追ってくる人が1人ではなく複数になると、その恐怖心は大きくなります」(天野園長)

 つまり、家庭という場で絶対的な信頼関係で結ばれた親から追いかけられることは子どもにとって楽しいことだ。しかし、幼稚園という場で複数の仲間から追いかけられることは怖いことであり、最初の経験がトラウマになってしまうこともあるという。

 そこで、風の谷幼稚園の年少児クラスでは、まず子ども全員で先生を追いかけるという遊びからスタートする。追われるのはイヤだが追うのは楽しいのだ。まずは安全な側から始めるのである。(ちなみに風の谷幼稚園では、年少児の最初の段階では、「鬼ごっこ」という表現は使わず「追いかけっこ」と呼ぶことにしている。「鬼」という言葉に恐怖心を抱く子どもに配慮してのことだ)

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