2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2009年12月1日

 日米両政府は2006年5月、普天間代替施設を14年までに完成させることなどを柱とする米軍再編のロードマップ(工程表)を策定した。工程表には、沖縄からの8000人の海兵隊員のグアム移転なども盛り込まれている。

 先に来日したロバート・ゲーツ米国防長官は10月21日の北沢俊美防衛相との共同記者会見で、「代替施設(の建設)なしでは、グアム移転もない。沖縄での兵員縮小と土地の返還もない」と強い調子で述べ、日米双方の政府関係者を驚かせた。

 この発言の背景には、米軍再編の一連のプロセスが、一つのパッケージになっているという事情がある。日本が絡む米軍再編構想は、「抑止力の維持」と「地元負担の軽減」の2本柱で成り立つ。普天間返還は、在日米軍、特に海兵隊がアジア太平洋地域で確固とした抑止力となることを目指しつつ、土地の返還や兵員削減によって地元の負担を軽減する、という大きな枠組みの中の一つのステップなのである。

 鳩山政権がもし、“アジア太平洋の平和と安定の礎石”である日米同盟を重視し、「日米基軸」を強調するなら、少なくとも東アジア地域の抑止力強化に貢献する戦略的役割を果たしてから「対等な関係」づくりを言うべきだろう。

 さらに骨太な議論が必要なのは、自衛隊の国際貢献のあり方だ。鳩山政権はインド洋での海自の給油活動の来年1月以降の中止を表明しただけで、今後、自衛隊がどのように国際平和協力活動に携わるのか、基本方針を検討する姿勢も見せていない。11月2日の衆院予算委で首相は、集団的自衛権の行使を禁じる従来の政府の憲法解釈を踏襲する考えを示した。首相は「新政権になったばかりで、変えるつもりはない」と述べ、当面は議論を先送りする考えを明らかにした。

 本来は、米国と「対等」な関係を築く一つの民主党的対案は、同党の小沢一郎幹事長が長年掲げてきた自衛隊の国際貢献のあり方ではないのか。小沢氏は、国連決議に基づく国連の平和活動には参加し、「結果的に武力行使を含む活動であっても、憲法に抵触しない」という独自の憲法解釈を持つ。その際は、国際標準で武器使用することも提唱している。賛否は分かれるが、少なくとも政権与党として、自衛隊の活動のあり方をめぐる骨太な議論を行うことは、日本の外交・安全保障を担う指導者の責務だといえる。

鳩山首相に必要な緊張感と責任感

 日本の戦後史で、衆院選の結果、政権が名実ともに交代したのは今回が初めてで、ある程度の試行錯誤があるのは、やむをえない。ほぼ8年ごとに政権交代が起きるアメリカでは、政権移行の手順もかなり確立されているが、それでも、大統領以下、外交・安全保障担当者が政府内でそっくり入れ替わる政権移行時の外交・安保上のリスクは、非常に高いと認識されているという。最近の例では、ブッシュ前政権の冒頭に起きた中国・海南島周辺での米中軍用機接触事件(01年4月)がある。これによって、米中関係は一気に緊迫した。

 現在、オバマ政権で国務次官補を務めるカート・キャンベル氏が、就任前の昨年末に共著で発表した「困難な政権移行―大統領就任直後の外交トラブル」(Difficult Transitions
―Foreign Policy Troubles at the Outset of Presidential Power)の内容は、今の鳩山政権にとって示唆深い。


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