2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年4月25日

 米ワシントン・ポスト紙が、3月19日付の社説で、クリミア住民がロシアの弾圧で苦しんでいる状況を報じるとともに、クリミアに関連した制裁は欧州で解除論があるが、今後とも維持すべきであると主張しています。社説の要旨は、次の通りです。

クリミアの悲惨な実態

 ロシアによる不法な併合から2年、クリミアは欧州で最も孤立した貧しい、そして文字通り暗い場所である。経済は破滅している。11月にウクライナからの送電線がダメになり、200万の住民への電力が切られ、ロシア当局は部分的にしか復旧に成功していない。ウクライナからの輸入は禁止され、薬品は不足し、観光業は活力を失っている。唯一活気ある産業は、政治的迫害、ロシアの占領を疑う人への法的、物理的攻撃などの抑圧である。

 ほぼすべての政府はクリミアをまだウクライナの一部と承認している。しかし、クリミアでそうする人は逮捕、迫害、5年までの禁錮に処せられる。家にウクライナ国旗を掲げたウラジーミル・バルーハは有罪になった。2014年、キエフで当時のウクライナ政府(ヤヌコヴィッチ政権)に反対するデモに参加したウクライナ市民は起訴されている。有名な映画監督オレグ・センツォフなど政治的な容疑者は裁判のためロシアに移送された。

 クリミアのタタール人(30万人、イスラム教徒でスターリンにより追放されたが、1980年代に帰還)は最もひどい迫害の対象である。自治のための機関、マジリスの議長3人(元、前、現職)は犯罪者として起訴された(二人は亡命、一人は刑務所に収監中)。先月、ロシアの検察は裁判所にマジリスを過激組織として禁止する(タタールのエリート2300人を犯罪人にする効果がある)ように申し立てた。昔のKGBに倣って、ロシア当局は新しいタタール組織を立ちあげ、前の独立系テレビ局の代わりに新しいテレビ局を作っている。タタール人をロシア市民にするために徴兵を実施し、医療その他のサービスを受けるためにはロシアのパスポートが必要としている。その他にロシアから軍人、治安部隊員、入植者が送りこまれている。

 先週のクリミア併合の2周年記念日には、米国の国連大使、サマンサ・パワーは「ロシアのクリミア併合は一度きりのウクライナ主権の侵害ではなく、継続的侵害である。新しい常態に慣れてはいけない」と述べた。

 欧州は制裁解除圧力が強くなっていて、そういう方向に向かっているように見える。クリミアの住民はプーチンの侵略で苦しんでいる。プーチン政権も苦しむようにするためには、米国の断固とした姿勢と活発な外交が必要である。

出 典:Washington Post ‘Crimea’s ‘new normal’ of repression’ (March 19, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/crimeas-new-normal-of-repression/2016/03/19/79b7800e-ed2a-11e5-b0fd-073d5930a7b7_story.html

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