2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年5月26日

 サウジのワッハーブ主義のイスラムは、1950年代にはイスラム世界の1~2%でしか信奉されなかった。それが石油ブームの到来で、サウジがワッハーブ主義をイスラム世界全体に広めた。それに伴い、イスラムの自由で多元的な解釈が消滅し、不毛で不寛容な解釈にとって代わられた。1980年代にアフガニスタンにおけるソ連との戦いが宗教色を帯びるにつれ、聖戦の原理が広まった。多くの場合、イスラム原理主義はイスラムテロとなった。

イスラム過激派との対立恐れるサウジ

 「9.11」以降、サウジは方針を変え、イスラム過激運動に対するサウジ政府の援助をやめた。David Petraeus元イラク駐留米軍司令官によれば、彼の司令官時代の最も重要な戦略的転換は、サウジが聖戦グループの暗黙の支持者から積極的な敵になったことであった。しかしパキスタン、インドネシアなどのイスラム過激派に対するサウジの支援は終わっていない。

 サウジ政府は反動を恐れてイスラム過激派と対決したがらない。現在サウジのソーシャルメディアで最も人気があるのはワッハーブの説教者や過激派の理論家で、彼らはイランとの闘争の一部として、反シーア派の教義を広めている。

 基本的なジレンマは、もしサウジ王室が倒れれば、とって代わるのはリベラルや民主主義者ではなく、イスラム主義者、反動主義者である可能性が高いことである。イラク、エジプト、リビア、シリアを見てきた経験から、防衛、石油、金融で安定した同盟国サウジを不安定化させるわけにはいかない。

 サウジ王政は自らとイデオロギーの輸出を見直し、改革しなければならない。米国は、サウジを孤立させ苦しめるより、サウジに関与した方がサウジは改革をしやすい。米国はサウジに対し道義上の勝利を得ようとするのではなく、サウジの抱える諸困難を受け入れるべきである。

出 典:Fareed Zakaria ‘Saudi Arabia: The devil we know’(Washington Post, April 21, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/saudi-arabia-the-devil-we-know/2016/04/21/2109ecf6-07fd-11e6-b283-e79d81c63c1b_story.html


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