秋山真之はいかにストラテジーを
構築したか

(5)戦務と戦略の平行講義


三浦康之(みうら・やすゆき)
1934年、満州国新京市生まれ。早稲田大学政経学部政治科卒。日本航空を定年退職後、著作をはじめる。著書に、『碁、このアジア的経営パラダイム』『甦る秋山真之』(上・下)、『満鉄と東インド会社、その産声』(いずれもウェッジ)、『戦略で勝てるか――体験的経営戦略論』『司馬遷流「イスラーム史記」』(いずれもエイチアンドアイ)など。

秋山真之に学ぶ名参謀への道

 日露海戦を勝利に導いた軍略家として名高い秋山真之。その活躍ぶりは司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』によって広く知られている。東郷平八郎をして「智謀湧くが如し」と言わしめた秋山の軌跡を辿ると、組織において参謀という存在がいかに大切かが分かる。
翻って、現代の企業にも秋山のような名参謀が必要である。大手航空会社で企業参謀としての研鑽を積み、歴史上のリーダーについても著書の多い著者が、秋山真之の軌跡を読み解きながら名参謀への道を説く。

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第3回の「基本から応用」ですでに、秋山流軍学の2層構造を学びました。今回は「戦務と戦略」の2元構造を学びましょう。あわせて「2元2層」、これが秋山流軍学の全体構造です。

戦務とは兵站?

 海軍大学校の前期講義で、秋山真之は「海軍基本戦術」と「海軍戦務」を平行講義しました。

 「戦務」とは聞きなれない術語でしょう。これは秋山真之が『兵語界説』で定めた独自の術語です。今日のことばでいえば「兵站」ですが、この「站」という字は単独では『広辞苑』にも現われない。企業参謀を志すほどの方は、ここで諦めてはいけません。漢和辞典で確かめる習慣を身につけてください。以下、秋山流思考の演習を試みましょう。

 「站」の原義は「しばらく立つ」「立ちどまる」で、「宿場」「停車場」を意味します。中国へ旅行した方なら、なんどもお目にかかっているはずです。

 では、英語ではなんというのか。平成の企業参謀諸兄姉は、こちらのほうは得意でしょう。そうです。Logisticsです。じゃあ、その語源はなにか。ここで、参謀たる者は『Oxford』英英辞典をひきます。「log」にはふたつ意味がある。まず「felled tree」(倒れ木)、つぎに「logarithm」(対数)です。どうやら、見当がついてきます。古代人は旅に出て野宿するとき、倒れた丸太を枕にした。だから「loge」となる。すなわち「站」ではないですか。古今東西、人類には共通した古代経験とことばがあります。

 参謀ならば、つぎの疑問が生ずるはずです。なぜ、秋山真之は「海軍兵站」を採用しなかったのか。その答えは、講義録10章の構成をみれば一目瞭然です。

「令達」「報告ト通報」「通信」「停泊」「航行」「捜索ト偵察」「警戒」「封鎖」「護送ト揚陸援」「給与」

 ここで念のため、最後の「給与」は「給料・賃金」ではありません。「補給」です。10隻の軍艦から成る1艦隊が必要とする給与は、いかほどか。

   給炭船16隻、給水船2隻、給品船4隻、給兵船2隻

 これが秋山真之が定めた基準です。当時の軍艦は蒸気船でした。10隻の戦闘艦を24隻もの補給船が支える。なぜ偶数でしょう。半数が補給基地へもどっても、半数は前進基地に残る。補給を絶やさない工夫でした。

 戦略戦術を論ずるのは華やかでおもしろい。しかし、縁の下の力もちである「戦務」の支えがなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。敵艦とあいまみえ基本戦術を応用して交戦がはじまる、その前後に、わが艦隊がやってのけなければならないすべての準備と後始末の業務、そのマニュアルが『海軍戦務』です。

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