WEDGE REPORT

2016年6月15日

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崔 碩栄 (チェ・ソギョン)

ジャーナリスト

1972年韓国ソウル生まれ。韓国の大学で日本学を専攻し、1999年渡日。関東地方の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。現在、フリーライターとして活動、日本に関する紹介記事を中心に雑誌などに寄稿。著書に『韓国人が書いた 韓国で行われている「反日教育」の実態』(彩図社刊)、『「反日モンスター」はこうして作られた-狂暴化する韓国人の心の中の怪物〈ケムル〉』(講談社刊)がある。

 先月韓国ソウルで起きた珍風景―。

 その発端は先月17日の深夜に起きた殺人事件だ。ソウルの繁華街、江南(カンナム)のカラオケが入っている商業ビルのトイレで20代女性が30代の男性に刺され死亡。犯人の男は逮捕されたが、彼と女性の間には何の関係も、接点もなかった。

iStock

 警察に逮捕された男は「私を遅刻させるため女性たちがわざと(私の前で)ゆっくり歩く」など女性たちに対する被害妄想と取れるような供述をしたという。男は男性がトイレに入った時は隠れてやりすごし、女性が入るのを待って犯行を起こした。

 警察発表によると犯人には精神病の症状がみられ、過去精神病院への入院歴が6回もある。1年以上体を洗わずホームレスのような生活をしたことがあり、今年の1月からは自ら精神科の薬物治療を止めていたという。警察はこの事件を「被害妄想の精神病患者が不特定の相手を対象に起こした犯罪とみられる」と発表した。

精神病患者の犯罪を強引に「嫌悪」と解釈する人たち

 この事件を巡って韓国では予想だにできなかったムーブメントが起きる。若い女性たちと女性運動家、そして一部のマスコミを中心に、この事件は精神病患者が起こした単純な事件ではないと警察の発表に反駁する人たちが現れたのだ。彼女らはこの事件を「韓国社会に蔓延する女性嫌悪の風潮がもたらした犯罪」、「女であるという理由だけで殺された」と解釈し、嫌悪(ヘイト)犯罪だと主張した。

 これらの主張がSNSとマスコミを通して広がると、騒動は一つの「社会現象」に発展した。犯行現場から近い地下鉄江南駅の出口は数千、数百の花とメッセージカード、そして被害者を追悼する人々で埋め尽くされた。だが、これは「追悼」のための空間というよりは「女性嫌悪犯罪」を強調するためのデモ現場であった。出口の壁に貼られていた紙に書かれたメッセージを覗くだけでもその異質性が伝わってくる。

 そこには「命を返してよ、殺人男!」「女性だから殺された=女性嫌悪」「男性という理由で殺されることはないから羨ましい」「男性だけに安全な国、韓国」といったメッセージが貼られていた。つまり、「韓国は女性嫌悪が蔓延している国だから、女性は常に被害者だ。加害者である男性は反省しなければならない」といった雰囲気が形成されたのだ。

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