イノベーションの風を読む

2016年6月16日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 前回の記事で「株主を重視する米国式経営の一部として日本に持ち込まれた成果主義によって、日本企業のイノベーションが死滅した」と書いた。成果主義は、米国式経営の象徴でもあるGEがいち早く導入した。それまでの米国の大企業における終身雇用という経営者と従業員の暗黙の了解もGEによって破られたとされている。

M&AによるGEの成長戦略

iStock

 6月6日に、GEの家電部門が正式に中国のハイアールの傘下となったことが発表された。GEの創業以来の基幹事業である家電部門は、2008年に前年度決算で初めて減益を記録した時から売却が検討されてきた。そして2014年にエレクトロラックスへいったん売却されたものの、2015年に米司法省の提訴で撤回され、その後、56億ドルでハイアールに売却されることが明らかになっていた。東芝も、3月に家電事業を中国のメディアグループ(美的集団)に約537億円で売却した。どちらも家電事業の売却だが、この2つが意味するところは大きく異なる。

 ジャック・ウェルチによって始められたGEのM&Aによるコングロマリット(複合企業)化は、企業規模の拡大を目指すというものではなく、同時に絶え間ない「選択と集中」を行うことにその狙いがある。会長に就任するなり、その市場においてNo.1かNo.2になれない事業は売却・閉鎖によって切り離すという方針を打ち出し実行した。普通の経営者なら、少しでも利益を出している事業から徹底的に利益を絞り出そうとする。しかしジャック・ウェルチは、競合他社に主導権を握られたり賞味期限の過ぎた事業は未練なく売却した。そしてその売却益は収益に計上するのではなく、競争力があり将来的にも成長が見込める事業の強化やM&Aに投下して事業の新陳代謝を行う。

 これは会社全体が落ち目になってからではできない。赤字幅を少しでも縮小するために売却益を収益に計上して、株主の批判と決算を乗り越えなければならないからだ。日本の製造業による事業の縮小や売却の多くは、この残念なケースになってしまっている。さらに、落ち目になってからのリストラは、外でも活躍できる能力をもった優秀な人材から流出していくという事態も引き起こしかねない。

 GEの「選択と集中」は2001年にCEOに就任したジェフリー・イメルトに引き継がれ、2007年に世界トップのプラスチック事業部を売却、2009年にはNBCユニバーサルの株式を売却するなど、金融部門の縮小と非中核部門の分離・売却を加速させて「インフラストラクチャー事業」と「付加価値の高い専門金融事業」という2つの事業領域への集中を進めている。家電部門の売却は、この戦略に沿ったものだ。

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