世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年6月22日

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 リベラル戦略センター(在ブルガリア)のイワン・クラステフ理事長が、5月15日付ニューヨーク・タイムズ紙に、「なぜプーチンは腐敗を許しているのか」と題する論説を寄せ、プーチンは国内での変化を求める動きを警戒しており、反腐敗闘争はそういう動きにつながりかねないからである、と説明しています。論説の要旨、次の通り。

習近平とは違う答え

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 パナマ文書の公表は諸問題を提起するが、その一つが権威主義政権にとり腐敗と戦うのがいいのか、あるいは腐敗と一緒に仕事するのがいいのか、である。習近平とプーチンはこれに全く違う答えを出している。

 習近平は2012年、腐敗を共産党支配の存立への脅威と呼び、腐敗した「トラも蠅も」退治するとしている。昨年までに100人以上の高位の高官が逮捕された。習近平はライバル排除に反腐敗キャンペーンを使っていると批判されているが、国民はこれを支持している。

 プーチンも言葉の上では習近平に倣っているが、17年間の統治の期間、腐敗を理由に退治された「トラ」は一人もなく、ごく少数の「蠅」しかいない。
なぜプーチンは腐敗との闘いを宣言しないのか。

 ロシアで腐敗は蔓延している。レヴァダ・センターの世論調査では、国民の多くは官僚組織がどうしようもなく腐敗していると考えている。西側のメディアの通常の説明はプーチン自身腐敗し、腐敗構造の中心にいるからというものである。そうかもしれない。しかし私(クラステフ)の経験では、自分が腐敗しているから、腐敗との闘いを宣言しないとは思わない。腐敗した政治家は他人の腐敗を嫌うものである。

 プーチンの躊躇の理由はもっと複雑である。一つには腐敗についての相互非難はエリート間の内争になり、多くの関連被害が出る。いま一つには、政治で問題になるのは腐敗の事実やレベルではなく、腐敗についての「認識」である。外国での小さな戦争の成功は、この「認識」に影響を与える。クリミア併合後、腐敗が増加しているというロシア人は50%から30%に減った。

 プーチンが心配しているのは、ロシアの外国の敵が腐敗を武器に使うことである。腐敗した官吏が盗んだ資産は西側にあり、西側の圧力に脆弱である。
腐敗は役人を団結させ、またリクルートにも役立つ。ロシアは腐敗エリートの粛清ではなく、「国有化」をしている。ロシアのエリートは腐敗してもよいが、忠誠心を持たなければならない。西側がプーチンに近いビジネスマンを制裁対象にしたことで、ロシアのプロパガンダは彼らを祖国の擁護者にしている。

 プーチンが腐敗闘争を宣言しない最も重要な理由は、反腐敗運動は国民に変化を要求させることになるからである。それは国民の怒りとともに願望にも働きかける。中国のように、明日はよりよくなるとはロシアは約束できない。それに経済が天然資源に頼り、企業家精神に頼る度合いが小さい。ロシア政府は、腐敗は人生の一部で自然現象のようなものと考えている。ウォッカ同様、害はあるが、ロシアはそれなしには考えられない。

出典:Ivan Krastev,‘Why Putin Tolerates Corruption’(New York Times, May 15, 2016)
http://www.nytimes.com/2016/05/16/opinion/why-putin-tolerates-corruption.html?_r=0

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