安保激変

2016年7月5日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 南シナ海でキューバ危機の再来か─。中国が今夏にも戦略的要衝のスカボロー礁の埋め立てに着手する可能性が出てきた。米中軍事バランスを変えかねないこの動きに、米国は海上封鎖も検討せざるを得ない。日本は安保法制をどう適用するのか。

 今年3月、南シナ海に浮かぶスカボロー礁周辺で中国船が測量を行っており、新たな人工島を造成するための埋め立ての兆候が見られることを、米海軍が明らかにした。スカボロー礁は、フィリピン・ルソン島のスービック湾から西へ約200キロに位置し、2012年に中国がフィリピンから実効支配を奪って以降、2隻の中国政府公船が常駐している。4月には5隻の政府公船が確認され、米比など関係国はいつ埋め立て作業が開始されるのかと警戒している。

南シナ海を航行中の米空母「ジョン・C・ステニス」に乗り込んだカーター米国防長官(中央)  AFP/JIJI

 中国の南シナ海での領有権主張が国際法に違反するとして、フィリピンが提訴した国際仲裁裁判所の判決がこの夏前にも出ると見込まれており、ハリス米太平洋軍司令官はその前後に埋め立てを始める可能性を指摘している。オバマ政権は人工島の建設が始まってもこれを実力で阻止することはなかったため、中国はオバマ政権の弱腰につけ込み、次期米政権が軌道に乗る前に埋め立てをする可能性が高い。米軍は、おそらく中国による埋め立てを牽制するため、スカボロー礁周辺でA-10攻撃機を飛行させたことを公表した。だが、このような牽制は中国に自衛措置として南シナ海のさらなる軍事化の口実を与えるだけであろう。

スカボロー礁を奪取した中国の姑息なやりくち

 12年4月、フィリピン海軍がスカボロー礁で違法操業している中国漁船を拿捕したところ、これに対抗して中国が政府公船を派遣した。フィリピン側も海軍に代わって沿岸警備隊を派遣し、中比の政府公船が対峙する状況が続いた。両国は非難の応酬を繰り広げたが、台風シーズンの到来を控え、6月に中国が緊張緩和のために両国の政府公船と漁船の撤収を提案した。フィリピンは自国船を撤収させたが、中国は船を撤収せず、むしろ礁の入り口を塞(ふさ)ぎ、そのまま実効支配を完成させた。

 振り返ってみれば、中国が漁船をスカボロー礁に送り込んだ時から、この環礁に人工島を建設し、軍事利用するという壮大な計画がすでにあったと考えるべきである。スカボロー礁は、米軍がすでに利用している旧米海軍基地のスービック湾や、クラーク旧米空軍基地などに近い。

 4月下旬に、カーター米国防長官は、中国によるスカボロー礁の埋め立てに強い懸念を示し、「軍事衝突を引き起こし得る」と発言した。スカボロー礁に軍事基地ができれば、スービック湾を含めルソン島の軍事施設を監視し、直接ミサイル攻撃できるようになるからである。

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