パナマ運河の拡張工事完成式典が6月26日に実施されたが、そこに習近平主席の姿はなかった。パナマ政府は各国首脳に完成式典の招待状を送っているが、3月25日の時点で、中国外交部の洪磊副報道局長は、同式典に習近平主席は出席しないとの見通しを明らかにしていた。
正式に招待されたにもかかわらず、ただ「出席しない」という回答はいかにも失礼に思えるが、実は、中国はパナマと国交を結んでいない。パナマは台湾と外交関係があり、台湾の蔡英文総統は完成式典に参加した。
中国にとっては、「パナマが中国と台湾の両方を招待したことこそ失礼」という認識で、中国外交部は、「中国の外交は『一つの中国』の原則を根本的な前提としている」と述べ、不快感を示した。
パナマ運河拡張式典に参加しない理由は色々と考えられるが、中国が築こうとしている「パナマ運河の強力なライバル」抜きには語れない。それがニカラグア運河である。ニカラグア湖を横断する運河の全長は、パナマ運河の3倍以上である278キロメートルもあり、太平洋側から同運河を抜けると、米国の「裏庭」ともいわれるカリブ海に出る。米国主導のパナマ運河に対抗すべく、中国が建設を目論んでいるのだ。後述する様々な事情によりプロジェクトの進行は遅れていたが、再開の動きが出てきている。
(出所:各種資料をもとにウェッジ作成)
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ニカラグアはコスタリカの北に位置し、コスタリカの南に位置するパナマと同様、中米にある。米国の影響下にあり、通航できる艦船の大きさに制限のあるパナマ運河を通らずに済むということになれば、中国が得られる利益は計り知れない。
ニカラグアにも運河を建設したい理由がある。ニカラグアにしてみれば、パナマはもともとコロンビアの一部に過ぎない。そのパナマが運河のおかげで経済発展し、街に摩天楼が立ち並ぶのが妬(ねた)ましかったのだ。
実は、ニカラグアもパナマ同様、台湾と外交関係がある。それにもかかわらず、中国とニカラグアが運河建設に合意したのは、双方の利益が一致したからだ。さらに、中国は、運河建設をテコにニカラグアに対する経済的影響力を増大して、台湾と断交させることも視野に入れているだろう。