海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年6月14日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「オバマのアシスト」です。広島から帰国したオバマ米大統領は選挙モードに入り、事実上の共和党候補となった不動産王ドナルド・トランプ候補を本格的に攻撃し始めました。同大統領は、名指しは避けながらも「共和党候補は」「彼は」とトランプ候補を意識した演説や市民集会を行っています。まるで自身の選挙運動のようです。その背景には何があるのでしょうか。

 本稿では、西部カリフォルニア州サンフランシスコで実施した349軒の戸別訪問で得た有権者の声の一部を紹介しながら、2016年米大統領選挙におけるオバマ大統領の役割について考えます。

クリントン選対の仲間たち(カリフォルニア州サンフランシスコ)

オバマVS.トランプ

 オバマ大統領には、明らかに危機感があります。というのは、本選でトランプ候補がヒラリー・クリントン候補を破り大統領に就任した場合、同大統領のレガシー(政治的功績)が減少ないし消滅してしまう可能性が出てくるからです。16年米大統領選挙の結果は、同大統領にとってレガシーの擁護と関係があるのです。

 中西部インディアナ州エルクハートでの演説では、オバマ大統領は広島演説とはまったく異なったスタイルを取っていました。広島演説では、同大統領は声のスピードを下げて、間を効果的にとりながら語っていたのに対して、同州では上着を脱ぎワイシャツの袖をまくり、速いテンポで聴衆に訴えかけたのです。スピード及び沈黙といったパラ言語(副次言語)が、広島とインディアナ州での演説ではとても対象的でした。

 オバマ大統領は、特に演説の中でエルクハートの失業率が09年に19.6%であったのが、16年には4%まで下がった点を強調していました。経済回復に加えて、医療保険制度改革によって既往症があっても医療保険の加入が可能になった点をレガシーとして挙げていたのです。さらに、市民集会では「アメリカはすでに偉大な国である」と指摘し、トランプ候補の「アメリカを再び偉大な国に戻す」というスローガンを批判したのです。「彼はいい取引をして海外から雇用を戻すと言うが、どのようにしてやるのか答えを持っていない」とも述べ、トランプ候補に畳み掛けて攻撃をしたのです。

 一方、トランプ候補はオバマ広島訪問に関してカリフォルニア州サンディエゴでの集会で、「(原爆投下について)謝罪しない限り、問題ない」と述べています。戸別訪問の際に、クリントン陣営が標的としているサンフランシスコ在住のトーマス・ヘレラさん(73)の自宅を訪ねると、オバマ広島訪問について感想をくれました。

 「私はオバマの広島訪問の演説を観ました。彼の顔は苦悩の色が濃かったです。私にはオバマが心の中で謝罪をしているように見えました」

 「オバマ広島訪問と米大統領選挙」で説明しましたが、オバマ大統領の母親アン・ダナムはオバマ少年に感情移入の重要性を教育しました。大学卒業後、オバマ大統領は、シカゴの貧困地区サウスサイドで地域福祉活動家として住民のニーズを把握し、市民生活の向上に努めていました。筆者の体験によりますと、オバマ選対には相手に対し敬意を示し、文化的背景の異なるすべての人を包含するという行動規範がありました。オバマ大統領が受けた教育、キャリア及び選対の行動規範を考えますと、同大統領が原爆投下を支持しているとは到底思えないのです。任期終了後、同大統領は適切と判断した時点で、原爆投下に反対する歴史家や若者と同じ立場をとるのではないかと筆者はみています。

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