安保激変

2016年6月29日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 6月30日、フィリピン大統領にロドリゴ・ドゥテルテ氏が就任する。選挙期間中、「人権など忘れろ」、「犯罪者は殺す」などの過激な発言を繰り返し、「フィリピンのトランプ」と呼ばれた。年率6%を超える高い経済成長を続けるフィリピンだが、中間層は国民のわずか1割にすぎず、汚職も蔓延し、長年の課題である治安も一向に改善されていない。そうした中、フィリピン国民は、国内で最も危険とされてきたダバオ市の治安を劇的に改善したドゥテルテ氏に現状を変えてくれることを期待したのだ。

30日、フィリピン大統領に就任するロドリゴ・ドゥテルテ氏(写真:ロイター/アフロ)

 「反エスタブリッシュメント」と「自国第一主義」――この2つのトレンドは、アメリカだけではなく、EU脱退を選んだイギリスなどヨーロッパでも見られて、世界各地に広がりつつある。ドゥテルテ氏はまさにこのような世界的な潮流の中で大統領に選ばれた。現状の否定を掲げるドゥテルテ大統領の下で、フィリピンの対外政策も大きく変わる可能性がある。地域安全保障の観点からは、新大統領が緊張の高まる南シナ海問題にどのように対処するかに注目が集まっている。

経済的利益を優先か?

 ここ数年、中国は南シナ海問題について対話や平和的解決を掲げながら、他方でフィリピンからスカボロー礁を奪い、南沙諸島に人工島を建設して、着実に現状変更を積み重ねてきた。このため、アキノ前政権は中国との南シナ海紛争で対話を断念し、日米との防衛協力を強化する一方、国連海洋法条約に基づく仲裁手続きを取り、国際法に基づく平和的な紛争の解決を模索した。この路線が新政権でも継承されるかどうかによって、南シナ海情勢は大きく影響を受ける。

 すでに、ドゥテルテ氏は経済的利益を優先して、南シナ海政策を転換する可能性を示唆している。選挙期間中に、ドゥテルテ氏は、中国が仲裁裁判の裁定を尊重しないならば、中国に占拠されたスカボロー礁にジェットスキーで乗り付けて国旗を立てると発言する一方、中国から経済支援が受けられるのであれば、南シナ海の領有権問題を棚上げする考えを示した。当選後には、ドゥテルテ氏は領土問題でフィリピンの主権を譲らないと強調する一方、中国の趙鑑華・駐フィリピン大使との会談では、「中比関係を改善したい」と伝えたという。実際に、ドゥテルテ氏は中国からマニラの慢性的渋滞解消のため、鉄道建設に関する協力の申し出があり、アーサー・トゥガーデ新運輸通信相を北京に派遣すると述べている。パーフェクト・ヤサイ・ジュニア新外相も、中国との協議に言及している。

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