「先生。どうしてぼくは跳べないのか教えて」
これまでの活動の中で、“わからない” “できない” ときに、“どうしてなのか” “どこができないのか” と具体的に考える思考を育ててきただけに、この言葉を聞いてうれしく思いました。
「あのね、右の肩はいいんだけど、こっち(左)の肩がぐるぐる回ってないんだよ。こっちのひじを伸ばして大きく回すことを頑張りな」
コクンとうなずく慶士くんに、「慶士くん、どこを頑張るの?」と、確認の意味で聞いてみました。すると、「あのね、こっちのひじを伸ばして大きく回すこと」と、答えは返ってきます。わかってはいるけれど思うように動かないのが現状ですが、でも第一は自分の課題を言葉にすることだと考えています。
そして、自分の課題がわかった慶士くん。なわを床において左肩を回すなわとび体操をしたり、跳びながら左肩を見たりと何度も何度も跳び続け、なんと最後には『ゆうびん屋さん』(18回)も、この日1日できれいに跳べるようになったのでした。 鳥1組 学級通信 「おおばこ」より
年中児クラス・鳥組(以下本原稿内では鳥組)の11月、風の谷幼稚園では「なわとび」のカリキュラムが始まる。冒頭のエピソードからも伝わってくるように、子どもたちはうまく跳べるようになりたい一心で、ひたむきにこの活動に取り組んでいる。そして、このカリキュラムが終わるころ、ほぼ全員がケンパー組(この年、鳥1組ではひじを伸ばして肩から腕を回してきれいに『ゆうびん屋さん』が飛べたらケンパー組になれるとしていた)に昇進するのだが、「なわとびが跳べるようになる」ことはあくまでも結果に過ぎない。この跳べるようになるまでのプロセスにおいて、子どもたちは一生の宝物をたくさん手に入れることになる。では、その宝物とは何なのか? なわとびに秘められた教育意図とはどのようなものなのか? 風の谷教育の真骨頂ともいえる「なわとび」について2回にわたって詳細に紹介していこう。
負けることに意味がある!
「なわとび」のカリキュラムが始まるといっても、子どもたちにとびなわを与えて跳び方を教えて「さあ、やってみよう」というように事が進むわけではない。まず用意されているのが年長児クラス・風組(以下本原稿内では風組)との「かけっこ」だ。「かけっこ」といってもただ競走するのではない。風組の子どもたちは「走りなわとび」で競走に挑む。さて、結果はどうなるのか? 「走りなわとび」というハンディキャップにも関わらず、風組の子どもたちは鳥組の子どもたちを軽々と抜き去っていく。子どもの発育状況によって鳥組が勝つ年もあるが、まず風組が勝つことがほとんどだ。
「速いよ!」
「速すぎる・・・」