チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年2月17日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 下馬評を覆し中国の優勝で幕を閉じた東アジアサッカー選手権。その序盤。中国チームと対戦した日本は0対0で引き分けた。実はこの試合の前日、選手・監督を招いた記者会見場では、日中間にスポーツの枠を飛び越えた問題が噴出しかねないニアミスが起きていたという。

中国メディアの意向を無視? 岡田監督の取材対応

 事の顛末を知る関係者は、「中国に眠る反日感情が再び頭をもたげても不思議ではないできごとだった」とこう振り返る。

 「中国戦は日本側にとって明らかに注目度の低い試合でした。しかし、中国側にとっては違っていました。約50名という大取材チームを日本に送り込んだほどですから。しかし岡田武史監督の取材対応は、こうした中国側の意気込みを裏切り、日本の記者だけを相手に、日本語だけで行ったのです。日本語の質疑が繰り返されるなか、中国の記者が『通訳を用意してくれないのか?』と迫ったものの、二度にわたり無視。二度目の要求が無視されたところで、とうとう中国側の記者全員が立ち上がり会見場を引き揚げました。当日の現場の記者たちの怒りは凄まじく、『中国はサッカーで日本から侮辱されただけでなく、メディアも軽くあしらわれた』、『岡田監督には断固謝罪を要求しよう!』との厳しい声が記者たちの間で湧き上がりました」

それでも反日感情が盛り上がらなかった理由

 サッカーは中国で最も人気のあるスポーツの一つ。ファンも過激で、国内リーグではチームのサポーター同士の乱闘騒ぎも度々見られる。その意味ではナショナリスティックな感情もサッカーを媒介すれば醸成されやすいという土壌もある。実際、中国が32年ぶりに勝利した韓国戦の直後には、「高麗棒子(朝鮮半島の人間を差別する言葉)め、ざまあみろ!」といった書き込みがネットにあふれただけでなく、試合を報じなかった中央電視台(CCTV)には全国から抗議が殺到したのである。

 だが、結果的に反日感情が中国国内で盛り上がることはなかった。それはなぜか。

 別の関係者が語る。

 「記者たちが記事にしなかったからです。彼らは申し合わせて、対日本戦を一行も記事にしないことを決めて、テレビも報じませんでした。放映権料も支払っているにもかかわらずテレビが試合を報じなかったのは、異常なことですよ」

 だが、これとて従来からすればかなり自制の働いた抗議だったと言えよう。

 背景には、いま中国が経済的に台頭したことから、中国人の日本人に対する感情が緩み、以前のように日本との問題に神経質でなくなったことがある。いわゆる〝ジャパン・パッシング〟の広がりだが、今回のケースはそれだけでは説明できない。

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