2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月29日

 CNAS(新米安全保障センター)のフォンテイン会長が、8月24日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説にて、米豪同盟強化を推進する豪政府と米中対立に巻き込まれたくない豪国民の感情のギャップを示し、米豪のそれぞれなすべきことを論じています。要旨、次の通り。

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米豪同盟の新たな役割

 米国のアジアシフトにより、米豪同盟には新たな重要性が生じている。豪は、軍事力と地域における行動主義を高め、安全保障上のパートナーシップを強化し、米国との防衛及び諜報協力を強化している。しかし、米豪関係は多くの分野でかつてなく強力になったものの、肝心のアジアではまだ試されていない。

 同時に、豪経済の対中依存が懸念すべき脆弱性を作り出している。豪の輸出の3分の1が中国向けで、これは他のG20諸国のいずれよりも高い割合である。中国の対豪投資も増加している。また、昨年、5万人近い中国人学生が豪の大学・学校に入学し、同国の「教育輸出」産業を後押しした。

 中国は、地域支配をめぐる米中の対立に巻き込まれることへの豪州人の恐れを煽ってもいる。豪が中国に南シナ海をめぐる仲裁裁判を尊重するよう求めると、環球時報は豪を「張り子の猫」と呼び、「豪が南シナ海に入ってきたら、中国にとり格好の警告・攻撃対象となる」と警告した。同時に、中国は、豪世論の形成に、メディアなど様々なソフトパワーの手段を動員している。

 豪には中国の努力を受け入れる土壌があるように思われる。最近のU.S. Studies Centerの調査によれば、豪州人は、米中がアジアの助けになるか害になるかとの質問に対し、両国に同じような評価を与えている。同じ調査で、かなり多くの回答者が、米国よりも中国との関係強化を望むとしている。米豪同盟への支持は依然として高いが、政府の政策と大衆の感情のギャップは拡大している。大衆は、同盟国米国と経済的後援者たる中国の選択を避けたがっている。

 豪はこのジレンマを永遠に避けられない。豪が南シナ海での航行の自由作戦を実施すれば中国の経済的報復のリスクがある。新しい爆撃機と給油機を豪の基地をローテーションさせたいとの米国防総省の発表は、「封じ込め」戦略を避けるようにとの中国の警告に真正面から対立し得る。

 米豪は共に中国にくさびを打ち込まれないよう努力しなければならない。米国は、同盟のコストについてのトランプのような発言を慎み、地域への深く継続的なプレゼンスを示すべきである。TPPの失敗も阻止しなければならない。豪は、対中依存からくる経済的脆弱性と利益をよりよく理解する必要がある。豪政府は、描いている戦略的将来、そしてそれがどのように今日の防衛投資と外交的選択を動かしているか、大衆によく知らせるべきである。豪州人は、中国の行動を押し戻すためにどの程度のリスクを取る用意があるのか議論する必要がある。これで中国のくさびのリスクを除去できるというわけではないが、軽減する効果はある。同盟の利益は、獲得維持の努力を払うに値する。

出典:Richard Fontaine,‘Australia’s Ambivalence Makes It Vulnerable’(Wall Street Journal, August 24, 2016)
http://www.wsj.com/articles/australias-ambivalence-makes-it-vulnerable-1472055055


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