世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月4日

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 ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デイビッド・イグネイシャスが、トルコのシリアへの越境攻撃は米国の対イスラム国戦略が内包する致命的欠陥、すなわちトルコとクルドの敵対関係を露わにするものであり、米国は戦略の基礎をより確かなものに作り直す必要がある、という論説を8月30日付け同紙に書いています。要旨次の通り。

(iStock)
 

ラッカ奪還作戦の主力

 イスラム国の首都であるラッカの奪回作戦はトルコとシリアのクルド組織YPG(クルド人民防衛隊)との間の戦闘のために遅れるかもしれない。それは、トルコとクルドの敵対関係という危険な断層の上に軍事計画を築いた米国のシリア政策の脆さを示すものである。米軍当局者は、シリアのクルドがイスラム国に対する最強の部隊だと言う。米国の特殊部隊の教官は、YPGに敬意を有し、YPG(およびその上部組織であるシリア民主軍SDF)をラッカ奪還作戦の主力と見ている。

 しかし、米国の戦略は一つの致命的欠陥を覆い隠すものである。すなわち、トルコは、YPGをPKK(クルド労働者党、トルコはテロ組織だとしている)の姉妹組織と看做す一方、米国がインジルリク空軍基地を使って空爆を行い、YPGを支援すること、またYPGが5月以降マンビジュを攻撃することに目をつぶって同意した。しかし、この危うい戦略は、いずれ破綻せざるを得なかった。

 8月24日、米国に告げることなく、トルコはシリアへの越境攻撃を開始し、国境沿いの町ジャラブルスのイスラム国の過激派だけでなく、クルドの戦闘員をも駆逐した。トルコの侵攻部隊には、CIAが訓練し、トルコ系シリア人の戦闘員が含まれていた。米国が支持する勢力同志の間での戦いを意味する。

 トルコはクルドがマンビジュからユーフラテス川の東に撤退するよう要求、クルドはトルコがジャラブルスの北へ撤退するよう要求した。トルコ訪問中のバイデン副大統領はトルコの侵攻とトルコの要求を支持した。YPG指導部は米国防総省にトルコが撤退しなければ、ラッカ作戦におけるクルドの役割は保証の限りでないと伝えた。不幸にしてラッカを解放出来る勢力は他にない。従って、以上の結果はイスラム国に対する「刑の執行猶予」ということになる。

 過去100年、西側諸国はその目的に適う時にはクルドの戦闘員を利用して来た。しかし、近隣諸国が異議を唱えると彼等を捨てた。米国もそうである。

 どうやって米国はイスラム国の掃討作戦のための、より強固な基礎を築き得るであろうか? 米国はイスラム国打倒後の統治の手助けをせねばならない。米国はトルコとPKKの和平協議の音頭をとるべきである。米国は、唯一の永続し得る将来はクルド、スンニ、シーア、トルクメンその他の少数派に当事者意識と管理意識を与え得る連邦制にあることを全ての関係者に明らかにすべきである。イスラム国をラッカから放逐することに乗り出す前に、米国は次なるステップについて近隣諸国と明快な了解を遂げる必要がある。

出典:David Ignatius,‘The U.S.’s Syria policy rests on a treacherous fault line’(Washington Post, August 30, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/global-opinions/the-uss-syria-policy-rests-on-a-treacherous-fault-line/2016/08/30/5cbd7e0e-6ef3-11e6-9705-23e51a2f424d_story.html

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