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2016年10月19日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

シリア大使と会見

 シリア大使館は首都のベイルートではなく、車で30分ほどのレバノンの防衛庁のあるYarzeh, Baabda Districtにあった。レバノン軍が厳重な警護にあたっていたが、シリアビザを求める人々の長蛇の列ができ、領事館を兼ねる大使館内はごったがえしていた。国境付近はヒズボラやレバノン正規軍がISを蹴散らし安全になったので、外国商人やシリア人と結婚している欧米人などがこの機会をとらえようとしていた。ビザ取得に3カ月前後かかるという。時間がない。とりあえずシリア行きは諦め、Ali Abdel Karim大使にインタビューする機会をえた。

シリア大使におしかけインタビュー

 「シリア内は、まれにみる悲惨で壮絶な戦いとなっています。多くの外国勢力が資金力にものを言わせ、シリアを内部から崩壊させようとしているのです。原因は2010年の大油田の発見とともに、イスラエルに近いとか地政学上重要な位置にあるからです。サウジアラビア発議のシリア非難国連決議などがありますが、それはテロ集団を利するものです。アメリカがいうような温和な反対勢力などなく、すべてテロリストで首を刎ねる人々です。海外に流されている、情報の7割は虚偽のものです。もし日本政府からの支援などあれば受けますが、チャリティのようなものはいりません」

 大使会見後、そのままダマスカス街道をシリア国境へと向かった。レバノンは岐阜県と同程度の面積の小さな国で2時間も走れば国境へ着く。畑ではシリア人の女性たちが働いている。男性よりも給与は安く、1日5ドル前後。シリアナンバーの車が多くなる。

女性は働き者

 途中、何カ所か難民キャンプを訪れ、話を聞いた。その中の一家は、反政府の牙城のひとつであるイドリブ(Idlib)出身であった。同市は肥沃な農地を持ち、アレッポとラタキアを結ぶ戦略上重要な都市。帰国後同市の産院が爆弾の被害にあったという報道をきいた。

難民キャンプ

難民キャンプの農民は帰還を待つ

 Zeid Al Kara(53)、妻Halimh(39):イスラム教徒。子供女子3名(9歳、7歳、4歳)。2012年レバノンへ逃れ難民となる。土地持ち農民で小麦を作っていた。

夫 「当時イドリブの反体制派はみなシリア人だったよ。でもアサド政府の戦闘機が爆弾をどんどん落としてきたんだ。子供が小さいので逃げることにしたのさ。国連から一人30ドル利用できるカードを支給されているよ。5人で月150ドルになるけど、十分じゃない。水は支給されているけど、ガスは自分で買っている。この土地は私有地だから年600ドル支払わなきゃいけない。全額は無理で借金が200ドルたまっている。働きたいけど、レバノンは小さい国だから、なかなか口はないね。それに畑で毒蛇に指が咬まれて、今も体が痛むときがあるんだ」

妻 「レバノンは物価が高いわ。シリアだったら同じ金額でパンならば、3つ買える。私たちは家に戻りたい。土地もあるし。政府なんてどこでもいいのよ。ちゃんと平和に暮らしていければ」

あの山越えればシリア

 ベイルートでは、やはりイドリブ出身で、ダマスカスの大学を中退したホテル勤務のシリア青年と懇意になったが、現政府には批判的だった。大まかなとらえ方だが、中産階級、起業家、知識階級はアサド政権支持で、農民や貧困層や学生の一部や、サウジアラビアのワッパーズ派のようなイスラム至上主義者が反対派に回っているといえる。そして反体制派とテロリストの境界は限りなく、曖昧である。

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